2020/08/20
昆正和の気候クライシスとBCP
■気候問題は原発で解決できる?
さて、ジェームス・ハンセンの話に戻ります。彼はNASAを辞めてからも、環境問題に精力的に取り組みましたが、2013年に同氏らが発表した研究報告がちょっとした物議をかもすことになりました。
以下はロイターの2014年1月14日に掲載されていた「コラム:原発は地球温暖化の「解決策」となるのか」(ロイターのコラムニスト、リチャード・シフマン氏の寄稿)という記事の概要です。
https://jp.reuters.com/article/l3n0km03v-breakingviews-nuclear-idJPTYEA0D02R20140114
ハンセンらは研究報告の中で次のように述べています。IPCCが提唱する「気温上昇を産業革命前からの2度未満に抑える」という案だけでは地球への長期にわたる回復不可能なダメージを防ぐことはできない。また、ソーラーや風力といった代替エネルギーだけで温室効果ガスの排出を十分に削減することは不可能であると。そして「新世代の原子炉を建設する必要がある。原発ならこの先何十年もクリーンな電力を供給し続けられる」と結論付けているのです。

これは『不都合な真実』を書いたアル・ゴアが、クリントン政権下では温暖化対策に後ろ向きだったこと以上に意外なことです。21世紀の気候危機を真っ先に予言した環境活動家でもあるハンセンともあろう人が。

ちなみに原発に関しては、この記事にも書かれているし、私たち日本人も当然のごとく抱く素朴な疑問があります。放射性廃棄物をどう処理するのか? 福島のような大規模災害が起こったらどうするのか? プルトニウムが核兵器に転用されないのか?といった問題も。
ジェームス・ハンセンは科学者ですから、純粋に科学の立場から二酸化炭素を出さない究極の代替エネルギーを提案したのでしょう。しかし現状では、上記のような大きな問題を解決する道筋は見えていません。

もっとも放射性廃棄物については、日本とは違って国土の広いアメリカならどこにでも廃棄できるでしょうが、それでも何万年も無害のままおとなしく地中に埋まっているとは思えない。度重なる自然災害や浸食作用などでいつか地上や河川に漏れ出し、広範囲にわたって周辺の町や村に深刻な放射能汚染をもたらす危険性も否定できません。
ハンセンの主張は単なる勇み足に過ぎなかったのかもしれませんが、その主張の裏には、気候対策が遅々として進まない大国アメリカに対するハンセンの苛立ちが垣間見えなくもありません。
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