地球温暖化に警告が発せられて30年余り(写真:写真AC)

■ある科学者の予言

アメリカ合衆国上院(出典:ウィキメディア・コモンズ)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:111th_US_Senate_class_photo.jpg?uselang=ja

1988年のことです。ジェームス・ハンセンという科学者が米上院公聴会に呼ばれ、次のように発言しました。

「地球は温暖化している。温暖化の原因は大気中の二酸化炭素濃度の上昇であり、これは99パーセント人間の活動によって引き起こされたものだ。このまま放置すれば、21世紀に入る頃には地球全体で危機的な温度上昇を招くことになるだろう。今のうちに米国主導で各国に二酸化炭素排出の削減を呼びかけないと、たいへんなことになる」

当時、ジェームス・ハンセンは米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙科学研究所の所長で気候科学者でした。議会での彼の主張は一大センセーションを巻き起こしたのですが、それが気候変動対策のはずみ車になることはありませんでした。

ハンセンの警告は、激しい抵抗勢力に遭い、また政治的理由も手伝って、米政府にドラスティックな行動を起こさせるには至らなかったからです。

ハンセンによれば、1990年代のクリントン政権も温暖化に関する情報公開には消極的で、副大統領アル・ゴアもそれに加担していたと言います。アル・ゴアと言えば『不都合な真実』という環境問題の本を書いて有名になっただけに、少し意外なことではあります。

一方、2000年に入ってからは、エネルギー業界と緊密な関係にあるブッシュ政権が科学者のコミュニティに圧力をかけて、地球温暖化の作用で発生している極端な気象現象をマスメディアに公開しないよう働きかけていました。

政治から遠のいた気候問題(写真:写真AC)

ハンセンが議会で主張した1980年代後半は、世界的な環境問題ブームが起こっていた時期でもあります。当時は南半球上空のオゾンホールの拡大(=紫外線量の増加)が白内障や皮膚がんにつながると恐れられ、酸性雨による被害もたびたびニュースになっていました。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)ができたのもこの頃です。しかしなぜか、前述のような人間同士の利害が絡んで、気候問題はなし崩し的に政治のテーマからは遠のいていきました。