2020/09/25
事例から学ぶ
あらぬ風評を立てられることは、会社の存続に関わる大きなリスクだ。生活者と直接商売する業種であればなおさら。創業90 年を超える老舗工務店の小林創建(長野県松本市、小林稔政社長)はこの春、まさにそうした危機に直面した。「社長が新型コロナウイルスに感染した」というデマが突然広まったため。小林稔政社長は「強い焦燥感に駆られた」と振り返る。コロナ不安からのデマ・風評が多数発生しているなか、同社がどのように難局を乗り切ったのか、危機時の広報はどう機能し、どんな効果をもたらしたのかを取材した。
小林創建
長野県松本市
突然のデマ拡散に驚きととまどい
―― デマはいつどのように発生したのですか。
長野県で最初の新型コロナウイルス感染者が確認された2月25日のすぐ翌日です。打ち合わせを終えたばかりの税理士から、携帯に電話がきました。

「さっき会ったばかりだけど、いま変な話を聞いた」と。何かと尋ねたら、小林創建の社長、つまり私が県内の感染者第1号だという話を人づてに聞いたというのです。驚くしかありませんでした。
長野県が開示していた情報は、感染者は松本保健所管内の60代会社役員、濃厚接触者となった50代の奥様も翌日に陽性が確認されたということだけ。松本保健所管内と会社役員は当てはまりますが、私は40代で、そもそも独身です。うわさにしても、あまりにかけ離れていました。
―― なぜそんなデマが流れたのでしょう。
分かりません。ただ、推測ですが、この時期は多くの人が普段の会話でひんぱんに「誰?」と話題にしていた。そこで一つのワードから、例えば「会社役員」というワードから、連想ゲームのように根拠のない想像が広がったのではないかと思います。
そうした根拠のない想像のなかで、当社がなぜか引っかかった。これも推測に過ぎませんが、当社は前年に社屋の看板を付け替えたり、外装をリノベーションしたりしていましたから、地域内で目立ったのかもしれません。
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