(出典:BCI, Supply Chain Resilience Report2017)

本連載では、BCM の専門家や実務者による非営利団体である BCI(注 1)による調査報告書を度々とりあげているが、これらの中で特に Supply Chain Resilience Report は、最も長期間にわたって継続的に発表されているものであり(注 2)、ここ数年は毎年 11 月上旬にロンドンで開催される、BCI World Conference & Exhibition で発表されるのが恒例となっている。今年も例年通り、11 月の Conference にて 2017 年版(以下、「本報告書」と略記)が発表されたので、今回はこちらを紹介する。

今回もまたチューリッヒ保険グループと共同で(注 3)、2017 年 6 ~ 8 月に調査が実施されている。調査は前回同様、BCI 会員を中心として Web サイトによるアンケートで行われ、64 カ国の 408 人から回答を得ている。

本報告書において最も象徴的な設問のひとつは、過去 12 ヶ月間にサプライチェーンに関連してどのようなトラブルを経験し、どの程度影響を受けたかを尋ねる設問である。前回調査(注 4)から大きく変わらないので、図の掲載は省略させていただくが、「計画外の IT または通信の停止」が 2012 年以来不動のトップである。

2 位から 6 位までは順に「サイバー攻撃・情報漏えい」、「能力・スキルの喪失」、「業務委託先の業務停止」、「輸送ネットワークの途絶」、「異常気象」となっており、これらの顔ぶれは前回と変わらない(これらの間で若干の順位変動はあるが、いずれも僅差である)。なお前回は 7 位に「為替レートの乱高下」が続いていたが、今回は 12 位まで落ちている。恐らく前回調査では、Brexit の影響で為替レートが変動したことによる影響が一時的に現れたものであろう。

本報告書においては他にも様々な観点からの調査が行われているが、図 1 はサプライチェーン途絶による財務的な影響が、どのくらい保険でカバーされていたかを尋ねた結果である。51% が全く保険をかけていなかったと回答しているが、これは前回調査から 8 ポイント増加している。しかしながら一方で、損失が全て保険で支払われたという回答が 13% あり、これも前回調査から 9 ポイント増加している。したがって、損害保険の利用が進んだ部分と後退した(もしくは保険をかけられないような分野での損失が増えた)部分とが混ざった結果となっている。これは今後も継続的に観察したいところである。

図 1, 設問「財務的な影響のうち保険がかけられていたのはどのくらいですか?」に対する回答(回答数 175)(出典:BCI, Supply Chain Resilience Report2017)

また表 1 は、3 つの設問に対する回答を、大企業と中小企業との間で比較したものである。この表は前回調査でも作成されているので、両者を比べてみると、「会社全体においてサプライチェーンの途絶が報告されている」と答えた中小企業が 45% から 31% に減少している(大企業の数字はほとんど変わっていない)。

一方で「サプライチェーンのレジリエンスに関するトップマネジメントのコミットメントが高い」と回答している大企業が、25% から 44% に急増している。中小企業の数字はほとんど変わっていないから、この 1 年の間に大企業が逆転したことになる。

表 1, 大企業と中小企業との間での取組状況の比較(出典:BCI, Supply Chain Resilience Report2017)

前述のような変化に気づけるのも、継続的な調査が行われることのメリットと言えよう。BCI にはぜひ今後も継続的な調査活動を期待したい。またチューリッヒ保険グループにも継続的な支援をお願いしたいと思う。

■ 報告書本文の入手先(PDF 27 ページ/約 1.9 MB)
https://www.thebci.org/resource/supply-chain-resilience-report-2017.html

注 1) BCIとは The Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、イギリスを本拠地として、世界100カ国以上に8000名以上の会員を擁する。http://www.thebci.org/

注 2) 本報告書の 2013 年版については、紙媒体の『リスク対策.com』vol. 42(2014 年 3 月発行)の連載記事「レジリエンスに関する世界の調査研究」第 1 回で紹介させていただいた。また 2009 年から 2015 年までの 7 年間の調査結果を総括する記事を、同連載の第 14 回(vol.55 / 2016 年 5 月発行)に掲載していただいた。さらに本報告書の 2016 年版については、本連載の 2017 年 9 月 26 日掲載分で紹介させていただいた。 http://www.risktaisaku.com/articles/-/3778

注 3) Supply Chain Resilience 調査に関するチューリッヒ保険グループと BCI との協力関係は 2009 年から継続している。

注 4) http://www.risktaisaku.com/articles/-/3778

(了)