2014/09/25
誌面情報 vol45
6.封じ込めせよ
WHO、CDCのスタッフ等が現地入りして患者の早期発見・早期隔離、コンタクト・トレース(患者が接触した人を聞き取り調査により割り出し、発症前から隔離する)、死体の処理法、消毒、防護服の配布などを行っている。しかし、メディアやインターネットを通じて情報が広がる地域ではない。言葉や風習も異なる。1つひとつの村を回りながら封じ込めを行うのにはかなりの時間がかかるだろう。アメリカ人医師が感染するなどエボラに対する知識もあり、しっかり防護策をたてていた医療関係者が感染している事実に対して、やがて世界各国からの協力者も減り始めるかもしれない。
7.生態系の変化:根本的原因はないか
2005年にオオコウモリがエボラ・ウイルスの自然宿主とする論文が発表された(Nature2005;438:575-6)。仮にエボラ・ウイルスは、1970年代の出血熱アウトブレイクが多発するようになる以前からコウモリを宿主として存在していたとしよう。なぜ今になって、エボラ出血熱のアウトブレイクが見られるようになったのだろう?
麦わら色オオコオモリは熱帯雨林の木を根城とし、10万∼100万匹で群を成して移動する。森林を伐採し、人が入植することによってコウモリが農園の作物を食べるようになった。オオコウモリはフルーツ・バットとも呼ばれ、果物を食べる。熱帯雨林の面積減少は、地球温暖化による気候変動や森林伐採の影響もあるかもしれない。あるいは熱帯雨林の面積が小さくなることによって、コウモリが食べ物を求めてジャングルとサバンナの境界領域にまで出没するようになり、ヒトとコウモリ、あるいはゴリラとコウモリが遭遇する機会が増えた。ヒトの場合には、道路が整備され遠くから病院に医療を求めてヒトがやってくるなど、感染者と非感染者とが接触する機会が増え、アウトブレイクの頻度が増えたこともあるであろう。
いずれにしてもアフリカの開発が進むに従い、ジャングルに眠っていたウイルスによる新興感染症のアウトブレイク・リスクも増加すると考えるべきだ。これはアフリカに限らず、アマゾン、東南アジアのジャングルでも同様だ。
今後の可能性
アフリカではエボラ・ウイルスの患者数はピークを過ぎて減少には転じるものの、アウトブレイクが長期化するのではないだろうか。つまりエボラが、マラリアなどの他の熱帯感染症のように風土病化してしまうと予測する。またアフリカで感染した人が飛行機で移動し、他国で発症。エボラ出血熱と気付かず、病院内で感染が拡大し、パニックに陥るシナリオも考えられなくはない。しかし、2009年に発生したインフルエンザ・パンデミックと同じように、瞬く間にエボラが世界に広がると考えるのは誤りである。エボラは、血液や体液などを介した接触感染であり、インフルエンザは飛沫感染であるからである。また前者は発症して重症化してから感染力をもつようになるが、後者は熱がでる前から感染力を有していたり、不顕性感染者も感染性をもつことも理由の1つだ。重症化したエボラ患者は動き回ることはできないであろうし、インフルエンザ患者は解熱剤を服用しながら仕事をするかもしれない。理由を挙げればきりがないが、エボラは今後先進国に飛び火することはあっても、アフリカのようにアウトブレイクにつながる、ましてやパンデミックになる可能性は低いであろう。
海外進出企業(組織)、国内企業(組織)として考えておくべきこと
ニュースなどで情報を仕入れるだけでは不十分で、何故そのようなことが起こっているかを深く洞察することが重要だ。そのことにより将来展望が開け、自社がどういう判断をし、どのような対策をするべきかが見えてくる。これは感染症に限ったことではないのではないだろうか?
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