豪雨災害の頻発を背景に、高齢者福祉施設の避難のあり方が変わる(写真:写真AC)

高齢者福祉施設の避難確保に関する検討会

令和2年7月豪雨災害で熊本県球磨村の高齢者施設「千寿園」で14名の高齢者が犠牲になったことを機に、昨年10月、国土交通省と厚生労働省が検討会を設置した。両省庁が合同で検討会を設置したのは、初めてだそうである。

その座長を務めさせていただいたが、3月18日に最終の検討会が開催され、とりまとめの議論と今後の対策が示されたので紹介したい。なお、現時点では最終報告書が作成されていないので、具体的な対策および国の施策については次回お示ししたい。

当時の千寿園の状況

7月3日16時45分に発表された気象庁の降水量予想では、4日18時までの24時間の降水量は多いところで 200ミリとされていた。実際には2倍以上の降水量があった。

警戒レベル4避難指示(緊急)が発令された7月4日3時半頃には、就寝中の千寿園の利用者とアットホームどんぐりの利用者を起床させ、5時頃には、山側から離れた別館まごころに避難させた。

令和2年7月豪雨による球磨川の氾濫。写真は熊本県八代市(出典:国土地理院)

7時頃になると、建物の浸水が始まったことから、その場の判断で、千寿園の2階に利用者の垂直避難を開始した。その際、近くから駆け付けた避難支援協力者約20名の協力を得て、懸命な避難支援により、千寿園の利用者48人とアットホームどんぐりから避難していた利用者5人の53人を避難させることができた。

しかしながら、幅1.2メートル程度の階段を使った2階への避難は時間がかかり、1階の水没によって17人の利用者がその場に取り残された。17人のうち3人はその後救助することができたが、14人の救助は間に合わなかった。

夜間に想定の2倍以上の豪雨があるという過酷事象の中で、職員数が少ない時間帯であるにもかかわらず、近隣住民の協力を得て56名を救助できたことは評価すべきと考えている。一方で、それでも14名の方が亡くなられたことを教訓に、検討会は、今後の高齢者施設のあるべき水災害対策について議論を重ねた。