2021/04/22
アンケート結果から見直す防災とBCP
リスク対策.comが行った地震シミュレーションアンケートの結果から、災害対策のポイントを学ぶシリーズ11回目は、事業継続に必要となるツールについて取り上げます。下記の質問に対して、自社の取り組みがどの程度当てはまるか、ぜひ改めて組織内で考え、現状の対策を見直してみてください。このシリーズが終わる頃には、きっと自分たちの防災やBCPのレベルが向上しているはずです!
【質問17】
停電のため、多くの社員からノートパソコンやスマートフォンを充電したいとの声が上がっています。あなたの組織では、災害時の事業継続に必要な非常用電源がしっかり確保できていると思いますか?
【質問18】
電話や携帯電話は輻輳(ふくそう)して、全く通じません。あなたの組織では、電話や携帯電話以外の通信手段で関係機関と連絡が取り合える状態になっていると思いますか?
①全くそう思わない
②あまりそう思わない
③半々
④そう思う
⑤強くそう思う
さて、どうでしょう? 回答状況は以下の通り。
【質問17】

【質問18】


非常用電源について、あまり対策が進んでいませんでした。もしかすると「非常用電源」という言葉を聞いて、ビルなどで停電時に電源を供給するための予備電源や非常用発電などの大規模な設備を想像したのかもしれません。ただし、この設問では「ノートパソコン」や「スマートフォン」などの充電です。まずは通信ができる機器について最低限のバッテリーを確保しましょう。
東日本大震災以降、バッテリー電池の性能向上・小型化・低価格化もあわさって、「ポータブル電源」という持ち運びができる大容量の蓄電池が、数万円程度で販売されるようになりました。パソコンやスマホの充電だけでなく、電気スタンドや小型冷蔵庫、炊飯器などにも使えます。一般家庭でも備えている人が増えていて、日常時にはアウトドアで使ったり、災害時には車中泊などでも活躍します。ぜひ会社での備蓄も検討してください。
連絡手段については、もちろんSNS(LINEなど)を使ったり、衛星携帯電話や移動無線などを備えたりすることは重要ですが、連絡は「コミュニケーション」ですので、情報の発信者と受信者の双方が、どのようなタイミングでどのような連絡手段でどのような情報について連絡を取るのかという「相互の共通認識」こそが重要です。BCPなどに明記するとともに、ぜひ実際の訓練などで継続的な確認をしてください。
結果は、非常用電源が、全回答の平均点が5点満点中2.95で、電話や携帯電話以外の通信手段が3.10となりました。
どちらも命を守るための道具というよりは、ビジネスを継続する上で必要となるものです。非常用電源の方が点数が低いのは意外でしたが、ノートPC用と書いたことで、容量の大きな非常用電源などを想像され、回答していただいたのだと思います。
実際、ノートパソコンをフル充電した場合、機種やバッテリーの劣化度合いにもよりますが、コンセントを抜いて使えるのは数時間から10数時間です。スマートフォンなら1日程度。無駄なアプリをすべて止めて省電力モードに切り替えればかなり長く使えるようですが、それでも非常用電源は用意しておきたいものです。ただし、オフィス内では燃焼系の発電機は使えませんので、ポータブル電源(蓄電池)、あるいは水を入れるだけで発電するような商品も出ていますので、こうしたオフィス内で使える発電機などを準備しておくことをお勧めします。ソーラーパネルもいいとは思いますが、天気がいいことに加え、期待通りの発電量がまかなえるかをしっかり検証した上で購入した方がいいでしょう。
通信手段については、過去の災害でも、電話や携帯電話は必ずと言っていいくらいつながりにくくなります。東日本大震災では携帯メールも送れなかったり遅延するといった事態に陥りました。LINEやFacebookなどのSNSはもちろん有効ですが、災害時にそれらを使えるようするためには、連絡を取り合う当事者双方が連絡手段について共通認識を持っておくことが重要です。また、連絡が取れなくなることで社会全体に影響を及ぼすような業種では、衛星携帯電話や移動無線、あるいはIP無線などの導入も検討しておくべきだと思います。いずれにしても、通信手段については、複数を用意しておくことと、それらが確実に使えるように教育・訓練を行い、共通認識を持っておくことがポイントとなります。
アンケート結果から見直す防災とBCPの他の記事
- 支払いや復旧にいくら必要になりますか?
- 目標を設定せずにBCPは機能しますか?
- 取引先の連絡先は常に最新になっていますか?
- 電源・通信手段は確保できていますか?
- 災害時の出社・帰宅判断基準を設けていますか?
おすすめ記事
-
-
-
「ビジネスイネーブラー」へ進化するセキュリティ組織
昨年、累計出品数が40億を突破し、流通取引総額が1兆円を超えたフリマアプリ「メルカリ」。オンラインサービス上では日々膨大な数の取引が行われています。顧客の利便性や従業員の生産性を落とさず、安全と信頼を高めるセキュリティ戦略について、執行役員CISOの市原尚久氏に聞きました。
2025/06/29
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/24
-
-
-
柔軟性と合理性で守る職場ハイブリッド勤務時代の“リアル”な改善
比較サイトの先駆けである「価格.com」やユーザー評価を重視した飲食店検索サイトの「食べログ」を運営し、現在は20を超えるサービスを提供するカカクコム(東京都渋谷区、村上敦浩代表取締役社長)。同社は新型コロナウイルス流行による出社率の低下をきっかけに、発災時に機能する防災体制に向けて改善に取り組んだ。誰が出社しているかわからない状況に対応するため、柔軟な組織づくりやマルチタスク化によるリスク分散など効果を重視した防災対策を進めている。
2025/06/20
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方