会議室にはこのような注意のボードも貼られている

経営陣の理解と後押しで普及

同社が感染症についてのBCPに取り組むことになったきっかけは、2009年のH1N1新型インフルエンザの流行だったという。日本中が未知の感染症で大騒ぎになったのは記憶に新しい。同社では危機感を持ち、1年間集中的に感染症についても取り組み、日常的に行わねばならないことや、万が一かかった際に行うことをまとめた。

しかし渋谷氏は「策定よりむしろ守らせることが大変だった」とその当時を振り返る。同社の社員は4161人(2017年12月末現在)。これに対してBCPの担当者は4人しかいないので、全部署を回って指導するなどということは不可能。特に日常的に行うべきことを守らせるのは大変で、「最初から社員が協力的にやってくれたかというと、そんなことはなかった。定着したと実感するのには4~5年程度はかかった」と渋谷氏は言う。

全社の定着につながったのは、経営陣が常に危機感を持っており、BCPに対する理解があったというのが大きい。同社のBCPは、半導体製造装置の消耗品である「砥石」を切らすと顧客の事業が継続できなくなり、取引先や社会全体に大きな影響をおよぼすという発想から、災害時の対応など、危機管理の取組を強化してきた伝統的に強い土壌がある。その中で、インフルエンザ流行をきっかけに感染症についてもそのDNAが発揮されてきたともいえる。

渋谷氏は「例えば解熱してから3日間は休ませられるというのは、経営陣からその下の中間管理職にまで休養の重要性の認識が浸透し、そういう仕組みを作ることができた結果だ」という。同社ではBCM最高委員会という会合を毎月開催して、決まった内容を課長以上が参加する幹部会にあげる。その後に幹部会参加者を通じ、全社に考えが伝わるという仕組みになっている。

地道な取り組みも行っている。新しい従業員が入社する際のオリエンテーションに注力し、災害だけでなく、感染症も含めたリスク管理について、マスクの正しい着け方から学ばせている。「みんなマスクをしている。本当に徹底している」とたいていの新入社員はまず驚くそうだ。ただし、入社時は学ぶべきことが多く。忘れてしまうこともままある。それでも会社全体で感染予防の文化が徹底され「なにかあれば周りの人が常に注意していくまでの環境にまでなった」(渋谷氏)という。「とにかく感染症対策というのは習慣づけが大事。子どもにうがいや手洗いを大人が行わせていたように、従業員に徹底させるための地道な取り組みが実を結んだ結果だ」と渋谷氏は感慨深く振り返る。

危機管理の考え方が浸透したことで、様々な効果もでている。「『以前に比べると風邪ひかなくなったな』という評価が出るなど、社員の健康面は確実に向上している」と渋谷氏は評価。徹底した目に見える取り組みが行われることによって、感染症以外に災害など他の危機管理についても社員の意識も強くなったことも大きいという。「事業継続という面以外に、会社には安全配慮義務があり、従業員を危機にさらすようなことがあってはいけない。BCPの徹底は会社以外にも、社員の安全・安心につながっている」と渋谷氏は述べ、成果につながっていることを実感しているという。

サプライヤー向け支援も

同社は感染症のみでなく、地震や大雨、テロなど、海外まで含めたさまざまな危機について、基本的な対応方針をまとめている。前述のアプリの利用以外に、社内イントラネットには危険レベルごとに「No Risk」「Normal」「Middle」「High」の4段階のリスク状態評価を掲載し、可視化を行うことで注意喚起を行っている。BCMのマネジメントシステムである国際規格ISO22301も国内でいち早く取得。ハード面では広島県の桑畑工場や呉工場の免震化も実施した。

それでも自社のみで事業の完結はないことから、2016年からはサプライヤーに対しても、個別のBCM構築支援を始めている。これまでディスコが積み上げてきた自分たちのBCMの構築ノウハウや経験をベースにBCP策定プログラムの雛形を用意。月に1回、サプライヤーの拠点に赴いて活動を実施するという形態を採っており、無料で実施している。感染症も含め、まだまだ改善への歩みを止めることはない。

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介