2021/07/09
危機管理担当者が最低限知っておきたい気象の知識
大雨特別警報(土砂災害)と「土砂災害の分水嶺」
土砂災害関係の情報としては、「大雨特別警報(土砂災害)」もあります。次の図が特別警報の発表基準のイメージですのでご覧ください。「大雨特別警報(土砂災害)」の基準は、「土砂災害の分水嶺」の右側の領域の中でも特に地中の水分量が多かったり、短時間雨量がまとまったりする可能性があるところに置かれます。具体的な基準は過去にその地域で発生した甚大な土砂災害の状況が設定根拠になっています。今後2時間先までに悪い状態の中での「最悪」に近づく見込みがある場合に発表されるのが「大雨特別警報(土砂災害)」です。

大雨特別警報(土砂災害)に関連して誤解がないようにしなければならないのは、特別警報が例え発表されていない状況であっても「土砂災害の分水嶺」を超えていれば危険だという点でしょう。実際、熱海市の土砂災害では特別警報は発表されなかったものの、人的被害を伴った甚大な土砂災害が発生しています。
都道府県のサイトでリアルタイムデータも確認を
気象庁の「土砂キキクル」は便利な情報ですが、色だけで表示されるため「土砂災害の分水嶺」を一体どの程度超えているのかなどが分からないという欠点があります。そうした欠点は都道府県が公開する砂防関係のポータルサイトの情報で補うことができる場合があります。試しに静岡県のシステムを使って熱海市の土砂災害が発生した当時の土壌中の水分量や雨量に関するデータを確認してみたのが以下の図です。

この図では紫色の線が「土砂災害の分水嶺」に当たります。青のクネクネとした線がこれまでの土壌雨量指数や60分間積算雨量の記録で、蛇のような形をとるので「スネークライン」と呼ばれます。この情報の中では予測値も示され、緑色で表されています。
こうしたリアルタイムのデータを見ることで、これまでの経緯や現在の状況、今後の見込みを把握することができるようになります。特に警戒した方が良い例としては、「土砂災害の分水嶺」を超えていることはもちろんですが、大きく超えたところに進んでいる時、右側の領域に入っている時間が継続する時、これまでの値や予測が大雨特別警報のイメージ図で見たように右斜め上側に伸びていく時などでしょう。インターネットの検索で「○○都道府県 土砂災害情報」などと調べ、都道府県のシステムでスネークラインまで確認できるのかあらかじめ把握してみてください。
最後になりますが、大きな土砂災害はその地域として記録的な雨となったときにしばしば発生しています。どの程度から地域にとって多過ぎる雨か把握する方法は過去に記事としてまとめていますので改めて確認しておきましょう。多過ぎる雨がすでに降り、「土砂災害の分水嶺」を超えた状態が情報やデータに現れる時は非常に危険な状態です。
▼「過去の記録的な雨量の調べ方と豪雨時のおすすめ監視ツール」
https://www.risktaisaku.com/articles/-/24802
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
危機管理担当者が最低限知っておきたい気象の知識の他の記事
おすすめ記事
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/07/01
-
-
-
「ビジネスイネーブラー」へ進化するセキュリティ組織
昨年、累計出品数が40億を突破し、流通取引総額が1兆円を超えたフリマアプリ「メルカリ」。オンラインサービス上では日々膨大な数の取引が行われています。顧客の利便性や従業員の生産性を落とさず、安全と信頼を高めるセキュリティ戦略について、執行役員CISOの市原尚久氏に聞きました。
2025/06/29
-
-
-
柔軟性と合理性で守る職場ハイブリッド勤務時代の“リアル”な改善
比較サイトの先駆けである「価格.com」やユーザー評価を重視した飲食店検索サイトの「食べログ」を運営し、現在は20を超えるサービスを提供するカカクコム(東京都渋谷区、村上敦浩代表取締役社長)。同社は新型コロナウイルス流行による出社率の低下をきっかけに、発災時に機能する防災体制に向けて改善に取り組んだ。誰が出社しているかわからない状況に対応するため、柔軟な組織づくりやマルチタスク化によるリスク分散など効果を重視した防災対策を進めている。
2025/06/20
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
熱海市の土石流災害では、土砂災害警戒情報が発表されたにもかかわらず、避...