気象庁は、内水氾濫や中小河川の外水氾濫、土砂災害が見込まれる際にキキクル(危険度分布)という情報を発表しています。2022年6月30日からはキキクルの色の体系が改められ、大雨警戒レベル5相当の情報として黒色の新設とレベル4相当として濃い紫色への一本化が実施されました。

一見すると重要な変更には見えないかもしれませんが、色の変更に伴って情報の発表基準も変化しており、キキクルの意味合いや使い方が大きく変わっています。そこで今回の記事では変更点についてあらためて確認するとともに、防災対策上の観点から分かりやすくなった点に加え、逆に分かりづらくなった点も指摘していきます。

キキクルの変更点について

制度変更前のキキクルでは、白色(河川の場合は水色)・黄色・赤色・薄い紫色・濃い紫色で危険度の高まりを表示する形が取られていました(下図参照)。注意報の発表基準への到達が見込まれたときには白または水色から黄色に変わり、警報の発表基準への到達が予測されるときには赤色が表示される仕組みです。薄い紫色は警報が発表される状態の中でもさらに悪化が見込まれたときに表示され(予測)、濃い紫色は既にそうした悪化状態に到達したこと(実況)を意味するものでした。

画像を拡大 図1:制度変更で変化した色のまとめ。図の左側が変更後、右側が変更前を示す。 (出典)気象庁作成の資料より https://www.jma.go.jp/jma/press/2205/18a/02_betten.pdf

制度変更後のキキクルでも黄色や赤色の位置付けや発表基準は変更ありませんが、薄い紫色がなくなり濃い紫色に一本化されたため、薄い紫色と濃い紫色で示していた予測と実況の区別がなくなりました。濃い紫色は警報よりも悪い状態が見込まれたときか、既にその状態に到達しているときに発表されるようになっています。

制度変更後の濃い紫色について各種のキキクルの意味をまとめると次のようになります。

●浸水キキクルの濃い紫色:内水氾濫による被害が1時間先までにさらに拡大していく可能性が予想されたときか、既にその状態になっているとき。

●洪水キキクルの濃い紫色:中小河川による氾濫の確度が3時間先までにさらに高くなることが予測されたときか、既にその状態になっているとき。

●土砂キキクルの濃い紫色:過去に土砂災害が発生した状況と同じ状態に2時間先までに至ると予想されたときか、既にその状態になっているとき。

 

制度変更後のキキクルでは、レベル5相当の状況を示すものとして黒色も取り入れられています。黒色の発表基準は「特別警報の基準値を既に超えた場合」で設定されています。

では、特別警報の基準値は何に基づいて決められているかというと、浸水キキクルや洪水キキクルの場合は大規模な浸水害を高い確度で適中させるような基準となっています(下図参照)。土砂キキクルの場合は、過去に大きな土砂災害の被害が発生したことのある条件が大雨特別警報の基準です。

画像を拡大 図2:洪水キキクルや浸水キキクルの黒色の基準の意味 (出典)気象庁作成の資料より https://www.jma.go.jp/jma/press/2205/18a/02_betten.pdf

このため、キキクルの黒色は、浸水や土砂災害によってその地域にとって規模の大きな被害が高い確度で見込まれるときに表示されるものとなります。なお黒色が現れるのは既に特別警報の基準を超えたときであるため、「これから○時間先にどうなるか」という予測ではなく、「今現在危険に直面している」という意味となります。その違いに留意してください。