2018/03/30
防災・危機管理ニュース

東京都は29日、1981年5月31日以前の旧耐震基準で建てられた建築物の耐震診断結果を公表した。建物名も含めた耐震診断結果の公表は都では初めて。特定緊急輸送道路沿道では449棟中31%にあたる139棟が、商業施設など不特定多数が利用する大規模建築物については398棟中4%にあたる1715棟が震度6強~7で倒壊する可能性が高いことがわかった。調査対象の18%が震度6強以上で倒壊する可能性が高い結果となった。
輸送上重要で、沿道建築物の倒壊による閉塞を防がないといけない特定緊急輸送道路沿道建築物と、不特定多数が利用する大規模建築物の公表は、2013年に施行された改正耐震改修促進法に基づくもの。都では2011年に条例で緊急輸送道路沿道建築物の耐震診断を義務づけ、未診断の建物名を公表してきたが、診断した建物名と結果まで公表するのは初めて。
診断結果は震度6強以上で倒壊または崩壊の(I)可能性が高い(II)危険性がある(III)危険性が低い-の3段階でわかりやすく示した。特定緊急輸送道路沿道は449棟中Iが31%の139棟、IIが15%の68棟、IIIが53%の238棟で改修工事中などが1%の4棟。大規模建築物はIが4%の1715棟、IIが7%の27棟、IIIが87%の346345棟で、改修工事中などは23%の811棟。IとIIで調査対象の29%を占める。
Iの大規模施設には新宿区の紀伊国屋ビルディング、港区のロアビルやニュー新橋ビルなど著名な施設もある。商業施設「渋谷109」が入居する渋谷区の道玄坂共同ビルもIだが、2019年度に耐震改修に着工する。
都・都市整備局によると、半年ほど前から公表の予定も含め、建物所有者とはやり取りを行っていたという。小池百合子知事は30日の記者会見で「建物ごとの耐震性を都民に周知することで、所有者が自覚を持って取り組むことを促し耐震化につながる」と公表の意義を説明した。
また小池知事は2018年度に修正作業に入り2019年度完了を目指す東京都地域防災計画震災編について「実効性確保が大事。2016年の熊本地震での避難所での混乱といった教訓や女性視点もふまえ、震災編の修正を行う。計画の実行性を高めるため何が必要か検討し、対応力向上に努める」と説明。検討会議で委員から一時滞在施設でのけがなどが起こった際の管理者免責のため、都独自の補償制度を求める意見が出たものの、2月発表の報告書に盛り込まれなかった帰宅困難者対策については「事業者の協力できる環境づくりが大事。損害賠償責任は全国共通の課題であり、都は国に事業者に責任が及ばない制度づくりを求めている」と述べた。
■ニュースリリースはこちら
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/03/29/14.html
■関連記事
東京の重要道路沿い未耐震化建物公表へ
http://www.risktaisaku.com/articles/-/5493
東京都地域防災計画震災編を修正へ
http://www.risktaisaku.com/articles/-/5512
一時滞在施設へ東京都独自の補償見送り
http://www.risktaisaku.com/articles/-/4954
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
※2018年4月16日付で東京都から説明補足資料の訂正が行われたため、その内容を反映しました(2018年4月18日)。
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方