クライミングとは違う!線路から人を引き上げるのは困難!まずは非常停止ボタンを押そう



クライマー墜落時のビレイヤーの衝撃(出典:Youtube)

こちらは、リードと言われるロープクライミングで、クライマーは支点となるカラビナに自らロープをかけながら登ります。それを確保する人(ビレイヤー)が支えます。

この時、体重が同じくらいの人であれば、落下するのを止めることができます。でも、動画を見ていただくとわかりますが、体重が軽い人であれば浮かび上がっています。

例えば80kgの人が落ちてくるのを支える場合、クライミングのビレイヤーは自分の体重を、重力を利用して下に向かってかけることができます。ですので、ビレイヤーが50kgだとすると80kg−50kg=30kgの力があれば理屈の上では止められることになります。

しかし、たった30kgであっても支点を中心にして、まるでシーソーみたいになるわけですから、50kgの人は浮かんでしまいます。それでも、クライミングでなんとか落下を止めることができるのは、摩擦があるからです。

これに対し、電車から落ちた人を引っ張り上げる時は、線路内はホームにいる自分より下になるので、自分の体重を重力を使って引っ張る方向にかけることができませんし、摩擦も使えません。かえって自分の体重は落ちる方向でかかってしまいます。ですので、80kgまるまる持ち上げる必要があるだけでなく、プラスして自分の体重分の重さを支えなければならないので、容易に自分も転落することになるのです。

また、以前、人を1対1で動かすには、重心を動かす必要があるということで、古武術の技を紹介しました。

■子どもが大人を救出できるかも!?古武術を使った救出技を身につけよう!
ポイントは「体幹」を使うこと
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2685

ここで紹介したように、同じ体重の人であっても後ろに引っ張ることすら出来ないのに、どうして手だけで自分より下にいる人を引っ張りあげられるという幻想を持ってしまうのでしょう?重心ではない手を引っ張っても、相手の重心は、下がったままなので、全く動きません。

アニメやドラマに出てくる、がけから落ちる人を手で支えて引っ張り上げるということがいかに無茶ぶりかわかっていただいたでしょうか?

設題の場合だと、2人で引っ張ろうとしていますから、80kgの人だと40kgづつで引っ張りあげればいいので1人で引っ張るよりも半分の力ですみます。しかしやっぱり自分の体重も落下を防ぐために支えなければいけないので、腕の力、背筋の力だけではそうそう支えられるものではありません。

だから、多少腕力や背筋に自信があったとしても、人を引っ張り上げるのは難しいので、まず「非常停止ボタン」を押す!これが重要です。どの鉄道会社の案内でも救助をせずに「非常停止ボタン」を押すことをお勧めしているのは、救助者が危険になるからです。

レスキューの鉄則で「救助者の安全を確保する」というのがあります。


と書いていますが、本当にその通りです。

電光掲示板を見て、そのホームに電車が入ってこないことは確認していたのですが、おっさんに引きずり込まれることまでは想像していなかったなぁ。中腰の姿勢で、重たいおっさんに引っ張られたら、こっちも落ちる可能性がないことはない。


今度から自分も落ちることを、よりしっかり想像していただければと思います。落ちる可能性ないことはないなんて甘いものではなく、自分の体重も手伝って落ちる可能性の方が高いと言えるでしょう。

アニメやドラマの万能感を信じず、鉄道会社の案内に従って欲しいと思います!!よく使う駅のどこに非常停止ボタンがあるのかもあらかじめ知っておきたいですね。

非常停止ボタンと押すと、大音量と光(赤い光)が点滅します。


東京メトロ 非常停止ボタンを押したら (出典:あんどうりす/Youtube)

東京メトロ研修センターにて 非常停止ボタンを押す練習をした際の映像です。非常停止ボタンのほか、係員に通報するボタンや、新幹線については、火災時にとまらない方がよいので(トンネル内は通過した方がよいから)ボタンが2つあることなど、以下の毎日新聞のマンガがわかりやすくて子どもと一緒に確認できます!

■漫画で解説 非常停止ボタンって?の巻 (毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20150824/mul/00m/040/00200sc

電車を止めるほどではない駅構内でのケンカの発見などで間違って非常停止ボタンを押さないように、あらかじめ知っておきたいですね!

ところで、この非常停止ボタンの色にも今後着目していただきたいと思います。以前カラーユニバーサルデザインという誰にでも見えやすい色について記事を書きました。

■その防災情報、実は見えにくいかも!人の見え方は5通りも!
防災情報はカラーユニバーサルデザインで♪
http://www.risktaisaku.com/articles/print/4427

2018年4月20日に日本工業規格(JIS)が改正されJISもカラーユニバーサルデザインに配慮した色使いに変わりました。

「日本工業規格(JIS)を制定・改正しました(平成30年4月分)~安全色及び安全標識などのJISを改正~」(出典:経済産業省) http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180420006/20180420006.html

 

これを受けて防災のデザインも変更していくことが予想されます。当然、非常停止ボタンも誰にでも見えやすいデザインに変わっていくかなと思います。

現段階で、小田急電鉄は2016年に非常停止ボタンだけではなく路線図なども、カラーユニバサルデザインに変更済みです。

小田急線非常停止ボタン (写真提供:伊賀公一さま)


非常停止ボタンのデザインは4分以降から(出典:Youtube)

今回は鉄道の話だから、うちの会社に関係ないと思っていた方も少しドキッとしていただければ嬉しいです♪