2016/03/24
誌面情報 vol54
若者を取り込む訓練のゲーム活用
一般社団法人「防災ガール」

「もっと防災をオシャレでわかりやすく。防災を当たり前の世の中にする」-そんな理想を掲げて、時代を駆け抜ける一般社団法人「防災ガール」(代表理事:田中美咲)。コンセプトに共感した多くの自治体や企業などと独自の防災訓練やイベントを手掛けるほか、メーカーとタイアップした防災商品づくりを手掛けるなど、幅広く活動を展開している。
彼女たちが開発した、スマートホンのゲームを活用した次世代型避難訓練「LUDUSOS」(ルドゥオス)を取材した。若者を防災にいかに取り込むか。どの組織でも抱える問題を解決する、大きなヒントになるかもしれない。

防災ガールは3月13日、東京都世田谷区の二子玉川駅周辺で次世代型避難訓練「LUDUSOS」(ルドゥオス)を開催した。昨年、渋谷駅周辺で開催し好評を博したことに引き続き2回目となる。同法人のSNSなどの呼びかけで集まった68人の生活者が参加した。
訓練は、2013年にインターネット検索大手の米Google社が開発したスマートホン向けゲーム「イングレス」を活用して行われた。イングレスは一般には「位置情報ゲーム」と呼ばれるもので、世界中の参加者が「エンライテンド(覚醒派)」「レジスタンス(抵抗派)」の2陣営に分かれて陣地を取り合う、いわば「陣取り合戦」だ。陣地をとるには参加者が実際にそのポイントから40m以内に行く必要があるが、今回の訓練ではポイントを避難所や避難ルート、災害時の危険区域などに定め、ゲーム感覚で町の防災情報を学ぶことを狙った。
日常に潜む危険ポイントを探せ

イングレス初心者は当日の朝10時に集合し、まず30分ほどゲーム操作のレクチャーから始まった。
初歩的な動作確認が終わったのち、当日のルールの説明があり、自分たちのミッションを確認。5人1組でチームを組み、訓練が開始された。基本的なルールは、制限時間内に与えられたミッションで指定されたポイントをどれだけ多くクリアするかを競いながら、町の防災ポイントを探っていくこと。途中、防災に関するクイズも出題され、チームで回答を話しあうこともある。多くのポイントをクリアできるには、「ポイントの位置情報をほかの地図アプリで確認してチームを先導する」「ミッションをできるだけ多くクリアする」などチーム内で役割分担するのも効率的だ。

イングレスは、実は防災だけではなくさまざまな目的で活用されている。例えば岩手県庁では「岩手県庁イングレス活用研究会」を組織し、昨年はイングレスイベント「ハック&キャンドルin盛岡」を開催。全国から160人の参加者が集まった。参加者は実際に盛岡市内のポイントを探しながら、土地の歴史や魅力に触れ、知識を深めていったという。ほかにも神奈川県東大和市では、「YAMATO de Ingress」と題し、地域のPRとともに市民の健康増進につなげている。
町の防災を話し合う

訓練終了後は、二子玉川の危険箇所についてチームごとに議論し、発表した。参加者は「訓練を通じて、改めて二子玉川駅周辺の防災問題について気づかされた」と話す。二子玉川駅周辺は多くが高層マンション立ち並ぶ新興住宅街だが、昔ながらの木造住宅が密集した商店街エリアも存在し、大地震発生時には家屋倒壊とともに火災の恐れがある。駅の南端では「二子玉川」の名前通り2つの川が合流し広い川を形成するため、ゲリラ豪雨や台風時には水害の危険性も高い。2つの川の中州には運動場が整備されているが、道が少ないため水かさが上がれば孤立する可能性もあるだろう。比較的新しい町のためか、避難所、一時避難場所の場所や経路などを示す案内掲示板も少なく感じる。駅前広場ではイベントに多くの住民が集まっていたが、「今地震が発生したらどうなるだろうと思うと、少し怖くなった」と話す参加者もいた。
日常の街を見て、危険を予測する

「防災ガール」は主に若者をターゲットに、新しい避難訓練や防災グッズを開発するなど、日常からの防災意識を高めるために2013年に設立。2015年に一般社団法人の認証を受けた。代表の田中氏は「訓練を通じて、『日常の街をみて、緊急時の危険を予測する』ことの重要さを感じてほしかった」と話している。
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