不用意なSNS投稿は炎上など災いのもとです(出典:写真AC)

■エリート社員のツイートが思わぬ災いに

X社は、海外のある国から大型プロジェクトを受注しようとコンペに参加していましたが、残念ながら失敗に終わりました。しかしこれだけならば、たまにあることなので次回またがんばろうで済むのですが、今回ばかりは社内に不穏な空気が漂い始めています。

コンペの準備と交渉を取り仕切っていたのは同社のエリート営業部長のTさん。その彼が、コンペの結果が分かった直後、地方の営業所へ転勤させられてしまったのです。社内からは「いくらコンペに負けたからといって何もあそこまでしなくても」と、ひそかに同情と不安の声が聞こえてきたのでした。

しかし事実はこうでした。多忙なコンペのさなか、ホテルに戻ったTさんは、冗談半分に今回の相手国の風習を揶揄(やゆ)するようなツイートをしてしまったのです。たまたまこのことに気づいたX社は、コンペの結果を待ってTさんの処遇に踏み切ったのでした。もちろんTさんのツイートがコンペの判定に直接影響したかどうかは分かりません。単なる偶然とも考えられます。しかし、いつ何時、どこの誰が閲覧しているか分からないのがソーシャルメディアです。何かのきっかけでこのツイートが相手国の担当者や競合他社の目に止まったとしても不思議ではありません。

コンペの失敗とTさんのツイートの一件。この経緯を見守っていたX社の危機管理室長Q氏は、「なんとかしなければ…」とつぶやきました。

■Planの前にリスク要因と影響の大きさを下調べ

Q氏は次のように考えます。「これはTさん個人のせいにして済むような一過性の問題ではないな。SNSでつぶやいている社員は他にも大勢いる。といってもすぐには解決しそうにないから、PDCAを意識しながらじっくり取り組んでみる必要がありそうだ」。こうしてQ氏のPDCAが始まりました。

まず「Plan」を組み立てる前にQ氏が調べたのは、企業秘密を口外したり、会社の信用や信頼を損ねるようなネガティブな言動をしないよう社員を戒める規定が社内にあるかどうかです。これについては、社則や個別の契約書にそれらしき文言がありましたが、SNSに直接言及したものではありません。

次に彼は、社員のSNSが炎上するきっかけや会社に及ぼし得る影響の大きさを調べました。専門家たちはいろいろなことを指摘しています。「ソーシャルメディアは、良いことも悪いことも、何の垣根もなく自由に世の中に発信できる術を提供する」「ネットの世界は寛容と不寛容が極端な形で渦巻いている」「会社というのは、どの社員も企業秘密は洩らさない、会社を擁護してくる人々の集まりだという性善説で成り立っている」「ソーシャルメディアのリスクが会社にもたらす最大のダメージは信用の失墜だ」…。

こうして下調べをした後、Q氏は次のように結論づけました。「この種のリスク回避には決定的な特効薬はなさそうだ。社員のソーシャルメディアの利用に関して、しっかりと会社の規則を周知してもらうように、当面は社内ルールと従業員の教育を充実させるのが唯一の近道なのだろう」。