2018/06/25
防災・危機管理ニュース
求められる建物構造とは
日本では高さ60m以上の超高層ビルが全国に約2500棟あり、その9割が首都圏、大阪、名古屋に集中している。今後予想される「南海トラフ大地震」「相模トラフ大地震」のような海溝型の巨大地震に備えて、事前の対策が求められている。
内閣府は2015年12月、国土交通省は2016年6月に、それぞれ南海トラフ巨大地震による超高層建築等の長周期地震動対策を公表している。特に後者では大きな影響が見込まれる大阪・中京・静岡地域で、高層ビルを新築する際には長周期地震動を考慮した建物の安全対策の実施を求めている。また既存の高層ビルに対しても、南海トラフ巨大地震で想定するM8~9クラスの巨大地震が設計当時の想定を上回る場合には、自主的な検証や必要に応じた補強等の措置を促している。「さらに今後、内閣府による『相模トラフ巨大地震』の長周期地震動の想定結果がまとまれば、首都圏の高層ビルにも同様な対策が求められるはず」と、久田教授は今後対策強化の範囲が広がると予測する。
高層ビルを所有・管理する側では、長周期地震動への荷重負荷を踏まえた耐震診断を行い、必要に応じた耐震補強工事を早急に実施することが望ましい。有効な方法として①長時間地震動による梁端部の繰り返し変形による破断などの可能性の検証を行い、破断の可能性があれば補強する。できれば②制振ダンバーを設置すること。これにより長周期地震動による共振時の大きな振幅を大幅に低減できる。さらに新築であれば③法規上求められる最低基準の耐震性能より数割程度以上は余裕を持たせる耐震性能を施すことが、確実な対処法といえる。
あまり知られていないが、大規模な活断層の近くでは「長周期パルス」、あるいは「フリングステップ/パルス(Fling Step/Pulse)」と呼ばれている大振幅のパルス的な地震動が生じることがある。2016年熊本地震の断層の近くの地震観測でも確認されている。この場合「断層ズレにより活断層直上のビルが短時間で大きく変形するため、制振ダンバーではあまり効果が期待できず、建物変形が起きないよう十分な余裕を持たせた耐震構造にする以外に対策がない」(久田教授)。周辺地盤の状況を踏まえて適切な構造補強を選択する必要がある。
今すでに高層ビルに入居するテナント企業であれば、まずはその建物の直下や周辺に公表されている活断層がないか、ある場合は地震調査研究推進本部や国土地理院、地元自治体等が公表している活断層の危険度(発生確率や断層ズレの大きさ、地震被害想定など)を確認すること。危険性の高い大規模な活断層があれば移転を含めて詳細に検討したほうがいい。どうしてもその建物に入居する必要がある場合は、その建物の耐震性を十分に確認すること。例えば、1981年以降の新耐震基準の建物、さらには2000年以降の建物であれば、仮に活断層の地震が生じても倒壊する可能性は低い。オフィスを移転するなどのタイミングで、移転先周辺の活断層分布とともに、建物の築年数、長周期地震動を踏まえた耐震補強の有無を確認しておきたい。
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