登山では予定通りに事が運ぶことはないと考えておく必要もある(写真:写真AC)

■よくない出来事は連鎖する

ある日、ハルトの会社に防災の先生がやってきて、いろいろためになる話をした後、最後に「災害はいつ何時起こるか分かりません。日頃から不測の事態に備えるようにしましょう」と締めくくって帰っていきました。彼はこの「不測の事態」という言葉が頭から離れませんでした。「そういえば、登山で不測の事態が起こったらどうしたらよいのだろう」と思ったからです。

前回の山歩きではこんなことがありました。金曜日の夜、最終列車で山麓の町まで行って現地のビジネスホテルに1泊し、翌朝の一番バスで目的の山へ日帰り登山に行こうという計画です。ところがこの後、いろいろ思わぬ出来事が頻発したのです。

まずホテルの部屋で100円ライターを忘れたことに気づきました。これがないとお湯を沸かすガスコンロが使えません。幸い受付に頼んで1個譲ってもらい、事なきを得ましたが。

次は翌朝。スマホのアラーム機能をセットし忘れて寝坊し、一番バスに乗り遅れてしまいました。やむなく彼は手痛い出費覚悟でタクシーを使い、登山口へ向かいました。

不測の事態が連続すれば気持ちは乱れる(写真:写真AC)

最後のとどめは下山の時。途中で浮き石を踏んでバランスを崩し、そのまま前を歩いていたおじさんにもたれかかってしまったのです。「おめえ、なにすんだ!」とおじさんは怖い顔で振り向く。近くにいた山ガールたちはクスクス笑う。どうやら足首をねん挫したらしく、痛いやら恐縮するやら恥ずかしいやらで、ハルトは穴に入りたい気分で山を下ったのでした。

■実際に災難に遭ったときの心構えとは

不運な出来事というのは、なんでこうも連続するのだろう。そもそもすべて予定通りに事が運ぶと思い込むのは、あまりに便利な文明生活に慣れ切ってしまった人間の驕りだろうか。ここは一つ、山では“予定半分、偶然半分”の心構えでいこう、と彼は考えました。

このように考えただけでも、多少は気がラクになろうというものです。万一のことに遭遇しても慌てず騒がず、まあ、こんなこともアリだなと落ち着いて行動できそうに思います。

登山での突然の災難に平静でいられるか(写真:写真AC)

しかし…と、彼はさらに深読みします。天候が急変して恐ろしい雷雨に遭遇したり、クマやイノシシと鉢合わせになったり、道に迷って方角がまったく分からなくなったときは、どうすればいいのだ? 予定半分、偶然半分などと呑気なことをいっていられるだろうか。それこそパニックになって、口から心臓が飛びだしそうな気分になるのでは? そしてそれは、さらなる危機を呼び寄せることになって、最後には滑落や転落といった最悪の事態につながるかもしれない、と。

そこでハルトは、突然降りかかった災難に対して、自分の心を追い込まないための工夫はないものかと考えました。「予定半分、偶然半分」という日頃の意識づけを「心の予防策」とするなら、実際に事が起こったときの「心の初動対応」と呼ぶものを見出そうというのです。