多くの商船や観光船が活動する唐津の海。海難事故は他人事ではない(写真:写真AC)

船レジャーの楽しさと怖さ

世界自然遺産に登録された知床をオホーツク海から見学する人気のツアー、いつか行ってみたいと思っていた方もいるかと思います。4月23日、その知床で大きな事故が起こりました。

乗客・乗員26人が乗った観光船「KAZU 1(カズワン)」が知床半島の沖合で遭難し、この原稿を書いている今現在14人が死亡、12人が行方不明となっています。29日には海上自衛隊の水中カメラが水深120メートルの海底に「KAZU 1」の船体を発見し、船内の捜索や船の引き揚げについての検討が進んでいます。自衛隊や海上保安庁に加え、地元漁協の漁船や他社の観光船が「ひとりでも多く見つけたい」と、ゴールデンウイーク期間中も早朝から捜索活動をしています。

事故を起こした観光船は2021年に2回事故を起こしているとか、給料が高いベテラン船長は解雇されて経験の浅い船長が操船していたとか、他の船は運航をやめていたのにこの観光船だけ出航したとか、海や船のことをよく知らない人が社長だったとか、無線が故障していて通信手段は携帯電話だけだったとか、さまざまな報道がされています。

これらの状況の一つでも改善されていたら、もしかしたら…。

船に人を乗せることは命をあずかること(写真:写真AC)

自分の船に人を乗せるということは、その人の命を預かるということです。一瞬で状況が変わる海に「100%の安全」はありません。船の責任者は海上で「起こり得る危機をできる限りたくさんイメージ」し「リスクを0に近づける」対策を常に頭に置き、瞬時の判断で身体が勝手に動くように、また避難指示のため大声がどのような状況下においても出せるようにしておかなければなりません。

唐津でも起こり得る

半潜水型の海中展望船(写真:写真AC)

私が移住した唐津は玄界灘に面しており、海のレジャーが盛んです。船内に大きな窓があり海中の魚や生物を見ることができる半潜水型海中展望船、奇岩景勝地として知られる神秘の洞窟・七ツ釜探検をする遊覧船、唐津市内7島との往来を担う渡し船、多くの釣りスポットへ釣り好きを運ぶ遊漁船など、たくさんの商船が唐津近海上で活動しています。

商船以外に個人所有船も多くあり、週末や穏やかな天候の日は出航している小型船も多いです。私が時々乗せていただく個人船のオーナーは「晴れて風のない凪」の日しか船を出しませし、午後風が出てくる前に港へ戻るため、乗船していて「危ない」と感じたことはありません。

しかし、今は安全でも1秒後に何が起きるかわからない、それが自然相手のレジャーの怖さです。

風が強い玄界灘は冬に船の遭難事故が多い(写真:写真AC)

玄界灘は風が強いことで知られています。強い北西季節風が吹く冬の時期、このエリアでは高波により船の遭難事故が多くなります。海に乗客とともに出航するとき、ここ唐津でも知床のような事故が起きるかもしれません。出航前そして出航中、可能な限り得られる情報をもとにどの段階で誰がどう判断するか、特にネガティブな決定を下すときの難しさを考えると、今回の事故は決して他人事ではありません。