組織で不祥事などが起きる背景にあるのが職場環境です。風通しが悪く言いたいことが言えない、上司から威圧的な指示ばかりが出され現場には権限がない――。こうした環境では、仮に組織内で不祥事やそれに類するような行為が行われていても、誰も指摘することないまま陋習化していくことになりかねません。今回は、こうした職場環境を生み出す上司のリーダーシップとフォロアーの関係についてみていきます。

□事例 意見すらいえない上司

数年前、某地方銀行の営業本部長になったA氏は、収益が低下していた営業部隊のテコ入れに取り組みました。バブル期に入行したA本部長はかつて優秀な営業成績を収めたことにより出世の階段を駆け上っていた人でした。

A本部長は自分の方針についてあれこれ他人に言われることを極端に嫌う人です。営業部には昨今の厳しい環境の中でも一定の成績を収めていたB課長という人がいました。B課長は部内で様々な提言を行ってきていて、自分のリーダーが間違った指示を出した場合には勇気をもって「NO」と言える人でもありました。A本部長とB課長は部内の方針をめぐってしばしば対立し、B課長を疎ましく思ったA本部長は、自身の権限でB課長の異動を決定しました。B課長と仲が良いとされた営業部員数名も異動または閑職に追いやられるような人事を断行しました。

次の営業課長に就任したC氏は、A本部長の「子飼い」といわれた人です。C課長は営業部内の諸問題には目をつむり、A本部長の機嫌を取りつづけました。絶えず自分を称賛してくれるC課長は、A本部長にとって心地よい存在でした。C課長はA本部長が気分を害するおそれのある報告をことごとく握りつぶし、都合のいいことしか報告しませんでした。問題が発生した時でも「本部長がどう思うか?」ばかりを考え、A本部長に責任が及ばないよう、部下にすべての処理を丸投げするような状態になりました。そうして営業部員の士気は日に日に下がっていきました。

本部長は半期に一度、営業部員との面談を行うのですが、面談において本部長に意見をいう人は誰もいません。もしA本部長に意見を言い、それが本部長の気に障れば異動や降格という処分があるとみんな知っているからです。「本部長には何も言うな」「本部長がやることには目をつぶっておけ」というのが部内の行動規範のようになっていきました。

それからはA本部長がいくら発破をかけようが、営業部隊の収益の改善は一向に見られなくなりました。自分が就任したにも関わらず業績の向上が見込まれないことに焦ったA本部長は頭取からの評価を気にしてC課長にノルマの達成を厳命しました。それを受けたC課長は部員一人ひとりにノルマを設け、顧客にとって不要であっても取引を押し付けてくるように命じたのです。営業部隊のモラルはここに至ってついに崩壊したのでした。

□解説 フォロワーの問題点を考える

本部長による営業部内でのワンマン体制が組織を疲弊させていく典型的な事例です。

A本部長のリーダーシップには確かに問題があります。自分に意見を言ってくる部下を遠ざけ、従順な部下だけを重用するやり方は言語道断です。それを前提としつつも、ここではリーダーシップの観点よりも「フォロアーシップ」の部分を考えていきたいと思います。

フォロアーシップとは、組織としての成果を最大化するためにチームメンバーがリーダーを支援する能力のことをいいます。これまでも多くの組織では「リーダーシップ」の重要性を考え、その教育に力を入れてきています。しかし、リーダーシップだけでは不十分であるとして、カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授が1992年に提唱したのが「フォロアーシップ」という考え方です。組織力の向上のためにはリーダーだけではなくチーム全体の力が必要であり、リーダーを支える「フォロアー」としての能力を高めなければ組織は強くなっていかないとするものです。ケリー教授の調査によれば、組織が出す結果に対してリーダーが及ぼす影響力は1~2割であるのに対し、フォロアーが及ぼす影響力は8~9割になるとされています。たとえリーダーがどんなに素晴らしいビジョンを示すことができたとしても、フォロアーが実行することができなければ、まさに「絵に描いた餅」になってしまうことや、リーダーの決定に対しフォロアーが常に従順に従うだけの組織では、もし誤った方向に進みだしても誰にも止められず、破滅の道を突き進むという特徴もこの考えによるものです。

組織内におけるリーダーとフォロアーの関係は以下にまとめられます。(図1)

画像を拡大 図1:組織内領域での「リーダーシップ」と「フォロアーシップ」

そして、組織においてリーダーとフォロアーの関係性が十分に発揮されると以下のような効果が出るとされています。

1.目的を組織内で共有した上で実行に移せる

2.上司の判断や決断のミスや抜け漏れを防ぐ

3.現場の生の情報が上司に届くようになる

4.チームの一体感が高まる

5.提案・提言の雰囲気や風土が醸成される