「メタバース」という言葉を色々なところで目にするようになっています。マーク・ザッカーバーグが率いるフェイスブック社が、この領域に社運をかける意味でMeta Platforms (メタ・プラットフォームズ)に社名変更したことも話題になりました。

メタバースとは一言で言えば仮想空間のことです。ではなぜそれが今ことさら脚光を浴びているのでしょうか。その理由と、防災目的での活用方法を解説いたします。

(Meta Platforms社が立ち上げたメタバース「Horizon World」のプロモーション動画)

メタバースとは

メタバースという言葉が初めて登場したのは、米国のSF作家ニール・スティーヴンスンが1992年に発表した小説「スノウ・クラッシュ」の中でした。コンピュータ・グラフィックスで構成された仮想世界を舞台とした近未来を描いた作品です。言葉としては今から30年も前からあったことになります。

メタバースという言葉を使わなくとも、仮想空間をテーマにした作品は古くからありました。例えば、1968年に発表された小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」、1982年に発表されたSF映画「トロン」、1999年に大ヒットした映画「マトリックス」などです。また、オンラインゲームも現在のメタバースがブームになる流れの源流の一つです。多人数が同時参加するロールプレイングゲームである「ウルティマオンライン」が発売されたのは1997年ですが、その後も多くの類似ジャンルのゲームが生まれ、2017年に開始された「フォートナイト」ではゲーム内でバーチャルコンサートが行われるなど、現在のメタバースに近い姿を見せています。

そして忘れてはならないのは、2000年代前半に流行した3D空間サービス「セカンドライフ」です。デジタル空間での土地やアイテムの売買で大金を稼ぐ個人が現れたり、大企業が競って仮想空間内の場所を対価を支払って押さえたりしたことで、リアルと仮想空間が入り混じる世界が実現したものの、当時のコンピュータの処理性能や通信速度の制約もあり、一過性のブームで終わってしまいました。

つまり、これまでも「メタバース的なもの」は多く存在したわけです。では、なぜいま改めて注目を浴びているのでしょうか。それを知るためにまず、メタバースを構成する要素を見てみましょう。下記は、この領域に特化して投資を行うベンチャーキャピタリスト、マシュー・ポールが「The Metaverse: What It Is, Where to Find it, and Who Will Build It」という文章の中で挙げたポイントです。

永続的に存在すること
リアルタイムであること
同時参加人数に上限がないこと
完全な経済活動が行われること

 

これらの要素が揃うことで、リアルと仮想空間の垣根が限りなく低くなります。仮想空間の中で身体性を伴う豊かなコミュニケーションが実現し、他の人と共同作業をしたり、コンサートに参加したり、アバターが着る服を製作して販売するなど、リッチな体験をすることができるようになるわけです。

そのためにはテクノロジーの進化が必要でした。精細なグラフィックスを描き出すコンピューティング性能、5Gによる大容量無線通信技術、デジタルデータの所有権を明確にするNFT(Non-fungible Token)を実現するブロックチェーン技術、仮想空間に人間が入り込むためのVR関連ソフトウェア/ハードウェア技術。これらが成熟してきたことにより、過去の仮想空間とは一線を画し、「リッチな体験」を実現する土壌が整った。これが、現在メタバースがクローズアップされている背景です。