2015/07/10
C+Bousai vol3
Q.地域の防災といえば、これまでに自主防災組織がありました。
自主防災組織の活動が多少形骸化しているのではないかと思っています。2012年度における市町村の自主防災組織の活動カバー率(自主防災組織が活動する地域の世帯数)は77.4%と高水準ですが、一生懸命に活動しているのは一部だけで、自治会の看板を掛け替えたような組織が多いのが現状です。原因の1つは、行政からトップダウンでつくられた組織ということがあるかもしれません。地区防災計画が、自主防災組織の活動の活性化につながればと期待しています。
地区防災計画における行政の役割は自助・共助をサポートする環境の整備です。人が被災するのは一生で1度か多くても2度ぐらい。その程度だと地域の防災意識の向上は簡単ではないし、防災知識の蓄積も難しい。それなら自助と共助が機能しやすい基盤や環境を行政が整えなくてはなりません。この考えは、災害対策基本法の改正にもつながっています。災害対策基本法には、自助・共助・公助の役割に加え、事業者の役割が記されていますが、自助・共助・公助と民間事業者を含めて防災対策を進め、東日本大震災のような悲惨な状況を防げるようにならなければいけません。
Q.地区防災計画の普及には市町村の防災担当者の理解が不可欠です。
地区防災計画は地域住民がリードして練り上げ、地域で維持していくものですが、実は市町村が策定する地域防災計画に地区防災計画を規定する決定権を握っているのは市町村です。これは法律の制定上、不回避でした。ですから、実質的には地域が主役であることを市町村の担当者にも再度ご認識していただき、よほど荒唐無稽で問題のある計画でなければ提案された計画を認める方向が正しい運用だと思います。住民自治を担うのが市町村の大きな役割です。いままでの行政計画のようにトップダウンで運用するのではなく、住民がやりたいと思ったことを後押しする。行政は地域のサポート役に徹し、地域住民の方々には地区防災計画をうまく利用してほしいと思います。
Q.ボトムアップ型の地区防災計画は理想的な考えだと思います。しかし、現実を考えると住民の自発性には限界があり、行政によるトップダウン型の方が有効との意見もあります。
地区防災計画のように住民が参加し、ボトムアップで積み上げる手法を取り入れる背景の1つには、過去の都市計画、まちづくりの反省があります。私は約10年前までまちづくりに直接携わっていました。
1968(昭和43)年に新たな都市計画法が制定されたのは大きな変化でした。道路や公園などの基盤整備や区画整理は国主導から都道府県および市町村へ決定権限が移譲されました。現在の街並みは、主にこの時代の都市計画を反映したものです。経済の急成長によって人口が増加し、都市化が猛烈なスピードで進んだ時期とも言えるでしょう。欧米に比べて緩やかな規制で、行政も基本的に道路を中心とする基盤整備を優先し、建物の整備は市場の力、民間の力でやってきました。この結果、住宅地に高層マンションが建設され、一般的な住宅の日照や通風が妨げられるトラブルが現在でも起きています。これは都市計画でしっかり規制すれば避けられた事態です。あるいは市場自らがこうした事態を予想できたかもしれません。
当時の都市計画法には住民参加の手続きも導入されましたが、行政からのトップダウンという制度的な問題もあり、うまく活用できなかった。このように政府も市場も失敗しうるわけです。そこを補うのが地区計画制度であり、住民参加による計画提案制度です。地区計画制度は昭和50年代半ばに制度化され、地域的合意で規制を強化して、より整った街並みの形成ができるようになりました。30年以上経過して、かなりの都市で活用されるようになってきており、地区防災計画も同じように定着していくことを期待しています。防災計画には国の防災基本計画、地方自治体の地域防災計画がありますが、いずれも行政によるトップダウンの計画です。地区防災計画によるボトムアップ型のアプローチを採用するのは、都市計画やまちづくりの失敗が背景にあるのです。地区防災計画に地域住民の方々が参加し、トップダウンでは見落とされる点や、行政が浮かばないアイデアなどをどんどん提案して欲しいものです。
C+Bousai vol3の他の記事
- 県境を越えて防災と地域活性化
- 巻頭インタビュー| 地区防災計画がつくる新たな共助社会 話し合う「場」を育てる
- 防災活動でマンションの価値向上 (よこすか海辺ニュータウン「ソフィアステイシア」)
- 原発被害を乗り越え未来に繋ぐ (福島県桑折町半田地区)
- 史上最悪の洪水に備える 避難基準を独自に設定 (長野市長沼地区)
おすすめ記事
-
-
-
3線モデルで浸透するリスクマネジメントコンプライアンス・ハンドブックで従業員意識も高まる【徹底解説】パーソルグループのERM
「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げ、総合人材サービス事業を展開するパーソルグループでは、2020年のグループ経営体制の刷新を契機にリスクマネジメント活動を強化している。ISO31000やCOSO-ERMを参考にしながら、独自にリスクマネジメントの体制を整備。現場の業務執行部門(第1線)、ITや人事など管理部門(第2線)、内部監査部門(第3線)でリスクマネジメントを推進する3線モデルを確立した。実際にリスクマネジメント活動で使っているテンプレートとともに、同社の活動を紹介する。
2024/07/23
-
インシデントの第一報を迅速共有システム化で迷い払拭
変圧器やリアクタなどの電子部品や電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所は、インシデントの報告システム「アラームエスカレーション」を整備し、素早い情報の伝達、収集、共有に努めている。2006年、当時社長だった田村直樹氏がリードして動き出した取り組み。CSRの一環でスタートした。
2024/07/23
-
「お困りごと」の傾聴からはじまるサプライヤーBCM支援
ブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックスは、サプライヤーを訪ね、丁寧に話しを聞くことからはじまる「BCM寄り添い活動」を2022年度から展開している。支援するのは小規模で経営体力が限られるサプライヤー。「本当に意味のある取り組みは何か」を考えながら進めている。
2024/07/22
-
-
危機管理担当者が知っておくべきハラスメントの動向業務上の指導とパワハラの違いを知る
5月17日に厚生労働省から発表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、従業員がパワハラやセクハラを受けていると認識した後の勤務先の対応として、パワハラでは約53%、セクハラでは約43%が「特に何もしなかった」と回答。相談された企業の対応に疑問を投げかける結果となった。企業の危機管理担当者も知っておくべきハラスメントのポイントについて、旬報法律事務所の新村響子弁護士に聞いた。
2024/07/18
-
基本解説 Q&A 線状降水帯とは何か?集中豪雨の3分の2を占める日本特有の現象
6月21日、気象庁が今年初の線状降水帯の発生を発表した。短時間で大量の激しい雨を降らせる線状降水帯は、土砂災害発生を経て、被害を甚大化させる。気象庁では今シーズンから、半日前の発生予測のエリアを細分化し、対応を促す。線状降水帯研究の第一人者である気象庁気象研究所の加藤輝之氏に、研究の最前線を聞いた。
2024/07/17
-
-
災害リスクへの対策が後回しになっている円滑なコミュニケーション対策を
目を向けるべきOTリスクは情報セキュリティーのほかにもさまざま。故障や不具合といった往年のリスクへの対策も万全ではない。特に、災害時の素早い復旧に向けた備えなどは後回しになっているという。ガートナージャパン・リサーチ&アドバイザリ部門の山本琢磨氏に、OTの課題を聞いた。
2024/07/16
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方