世界中の企業は蔓延するインフレ、新型コロナパンデミックの継続、気象変動のさらなる悪化など、昨年もグローバルな影響を及ぼす多くの重大問題に直面した。RIMS会員誌『Risk Management』編集者モーガン・オルークとヒラリー・タットルはこうした問題をまとめている。2022年にリスク専門家が取り組まなければならなかった最重要課題と、2023年に向かって対応せねばならないであろう課題に焦点を当て、昨年、最も注目すべきリスクイベントを概観している 。

新型コロナに関連するリスク

コロナ感染は世界的に大きな課題を投げかけている。感染によって多くの死者が出ていること自体はもちろん、感染を防ぐためにとられる法的な規制はビジネスに影響を及ぼしている。アメリカとカナダ国境ではワクチン接種を巡ってトラック輸送業者が抗議活動を起こした。接種を受けなければ国境を越えて輸送ビジネスを展開できないことへの抗議である。これは輸送業者だけの問題にとどまることではなく、これらを活用するビジネスのグローバルなロジスティクスの問題でもある。

感染のための規制だけでなく、規制解除も問題となる。韓国イテウォンのハロウィン群衆での悲劇は、規制解除によって多くの人が一か所に集まり過ぎたことが、背景にあった。規制強化、規制緩和はともに大きなリスク要因になりうる。

気候変動

気候変動もまた、注目すべき課題である。頻発化、激化するハリケーン、アフガン、メキシコ、コスタリカなのでの大きな地震。これらは自然環境での出来事がビジネスに大きな影響を及ぼし得ることを意味する。そのため、米国証券取引委員会は上場企業に対して、気候関連リスクの広範な開示に向けて動き出している。こうした状況は日本でもすでに顕著になりつつある。

企業の開示情報

企業の開示情報という点では、ニューヨーク州の給与透明化法も注目に値する。4人以上の従業員を抱える企業は採用に当たって、すべての求職者に対して給与を明確にすることが義務付けられた。これは差別的な賃金支払いを是正するためのものであり、人種や性別に基づく賃金格差をなくすためのものである。こうした法規制はニューヨークだけでなく、コロラド、ワシントン、メリーランドなどの州でも同じ方向へと動き出している。

IT社会の進展への対応

IT社会の進展への対応も、大きな課題である。コスタリカ政府は大規模なランサムウェア攻撃を受けたものの、支払いを拒否した結果、多くのサービスを提供できない機能不全に陥った。こうしたサイバーテロは決して例外的なものでなく、その対処ではハード、ソフトでの防衛、さらには保険での予防といった総合的な対策が求められる。

個人情報の保護

ネット社会では個人情報の保護がさらに大きな課題となる。すでにカリフォルニア州消費者プライバシーにより化粧品小売のセフォラが120万ドルの罰金を支払った。また前年のアマゾンに引き続き、EUの一般データ保護規制に基づいて、アイルランドのデータ保護局からメタが4億500万ユーロの罰金を科された。フェイスブックも、ワッツアップも同様に罰金を科されている。しかも、グルーグル、アップル、フェイスブック、マイクロソフトなどの大規模オンライン・プラットフォーム企業に対しては、EUはデジタル市場法を制定して、有意な地位を利用した競争を阻害する行為を禁じようと動いている。

見逃してはならないのは、仕事で個人の携帯、個人向けメッセージング・プラットフォームなどを活用することに対する規制の動きである。リモートワークやハイブリッドワークが進展する中、仕事上でこうした「オフ・チャネル」通信を活用する機会も増えることなる。しかし、これらの通信から情報が遺漏するリスクも増加することなり、それに効果的に対応できていないことに対しては、企業が責任を問われることになるからである。

ロシアのウクライナ侵攻

この他にもロシアのウクライナへの侵攻は大きなリスクイベントであり、世界的な影響力が大きなものであったし、今後も注意すべき要因である。

アメリカ特有のリスク

また、アメリカ独自のリスク要因もある。集団銃撃事件が多発していることから、銃器安全法が強化されたことがその一例である。また中絶問題も大きな社会問題であるし、バイデン大統領が署名したマリファナ恩赦も大きなインパクトをもたらしている。中絶は従業員の保険の扱いに影響を及ぼすし、マリファナ恩赦は採用に当たってどのように配慮すべきなのかという課題を投げかけるという意味で、企業にとってはリスク要因となるからである。

参考:RIMSホームページ, 日本語訳はRIMS日本支部サイト