2023年が幕を開けた。ようやく新型コロナウイルス感染症の収束が見え始めたと思いきや、ロシアのウクライナ侵攻により、原油価格や株式市場は揺れ動き、世界的な物価高が各国経済の足かせ要因となっている。ロシア・ウクライナ問題はまた、米中関係の悪化にも拍車をかけ、世界情勢全体が混迷を極めている。2023年のリスクをどう読むか。

ユーラシア・グループが挙げる10大リスク

政治リスク分析を専門とする米調査会社ユーラシア・グループは3日、2023年版の世界の「10大リスク」を発表した。1位にはウクライナ侵攻を続けるロシアを挙げ、「世界で最も危険な『ならず者国家』」になり欧米などの安全保障を脅かすと指摘した。米著名政治学者イアン・ブレマー氏が率いるユーラシア社は、ロシアが「核の脅し」を強めると分析。「事故や誤算」による核兵器使用リスクは「1962年のキューバ危機以降で最も高い」と警告した。2位は、中国共産党総書記として異例の3期目入りを果たし、権力を集中させた習近平国家主席。「大きな過ちを犯す可能性が高い」とし、習政権下で「恣意(しい)的な決定や政策の不安定さがはびこる」と懸念を示した。このほか、ウクライナ情勢などに絡む「エネルギー危機」をリスクの6位に挙げた。原油相場について、ロシアの生産減に加え、中国の「ゼロコロナ」政策転換で予想より速く景気回復が進むことなどによる需要増を踏まえ、23年末までに1バレル=100ドルを上回ると予測した【時事通信1月4日配信】。

TOP RISKS 2023

ところで、本レポートの冒頭には「世界的なパンデミック、戦争、大規模なインフレショック、気候変動の激化によって、人類の発展の進歩は逆行することになった」と指摘している。新型コロナは人々の行動を妨げ、ロシア・ウクライナ戦争はエネルギーや食料問題を引き起こし、さらに世界経済全体に大きな影響をもたらした。レポートは、「数十年にわたるグローバリゼーションが、前例のない世界的成長と強固な世界的中産階級の出現を後押しした後、私たちは今、世界の80億人の大半の人々が、教育水準、平均寿命、経済的豊かさ、安全・安心において、良くなるどころか、悪化しているのを見ている。2023年、人類の発展への逆風はさらに強まるだろう」と悲観的な見解を投げかけている。

コロナが収束し、これまで隠忍自重していた人々の行動や経済活動がようやく感染対策という束縛から解き放たれ、飛躍に転じようとする一方で、ロシア・ウクライナ問題を機に発した物価高騰や米中関係の悪化など市場の分断が足かせとなり、なかなかアクセルが踏み込めない。この「束縛からの解放」と「新たな規制」のジレンマが、2023年のリスクの様相を表している。

【ユーラシア・グループによる2023年10大リスク】
https://www.eurasiagroup.net/services/japan

1.ならず者国家ロシア
2.権力が最大化された習近平国家主席
3.テクノロジーの進歩による社会混乱
4.インフレの衝撃波
5.追い込まれたイラン
6.エネルギー危機
7.阻害される世界の発展
8.アメリカの分断
9.デジタルネイティブ世代の台頭
10.水不足

コントロール・リスクスが注視する主要リスク

セキュリティとインテリジェンスに強みを持つ経営コンサルティング会社「コントロール・リスクス」は、毎年、世界のビジネスリスクのトレンドを分析し、RiskMapとして提示するとともに、①地政学的リスク、②セキュリティリスク、③サイバーリスク、④オペレーションリスク、⑤規制リスクの5つの主要リスクと対応策について解説している。

【リスクマップ2023】
https://www.controlrisks.com/jp/riskmap

コントロール・リスクス「リスクマップ2023」

このうち①地政学的リスクについては、「米中関係が、企業にとって、2023年最大の地政学的リスク」と言明している。「2023年中に、米中間の武力紛争が起こる可能性は低いものの、この二国間の競争と対立は、貿易面やテクノロジー面から軍事分野に移行しつつある」。また、武力紛争以外に注視すべきテーマとして、重要なサプライチェーンを切り離す「デカップリング」に向けた動きを上げている。米国は半導体、EVバッテリー、重要な鉱物などの業界における「リショアニング(サプライチェーンの国内回帰)」と「フレンド・ショアニング(サプライチェーンの友好国・同盟国への移転)」の公約を推進しているが、同様に、中国は製造業における自国の優位性を向上させ、半導体などの重要技術の内製化を急いでいる。特に米中でビジネスを行う企業にとって、規制とコンプライアンスのジレンマの出現は、かつてないほど現実的なリスクとなっているとする。また、④オペレーションリスクについては「エネルギーの混乱を管理しつつ変化に適応すること」を強調している。ロシア・ウクライナ問題が発端となったエネルギーの混乱は「今後も永続的で体系的な変革をもたらすもの」と指摘。もはや 2022年以前の安定した状態に戻ることはないとしている。「企業は短期的な価格高騰と供給不足を乗り切る方法だけでなく、包括的に再構築される新たなグローバル・エネルギーシステムで成功する方法を検討する必要がある」。エネルギー問題はサプライチェーンの混乱にも影響を及ぼす。「価格上昇による渡航、船舶輸送、トラック輸送のコスト上昇による財務リスクに加えて、EUやその連携国がロシアの海上石油輸送に制裁を加えた後、輸送が途絶するリスクを考慮する必要がある」という。⑤規制リスクについては、「緊縮財政、資源不足と争奪戦が基調となる」と警告。これらに加えて、企業にとっての懸念要素としては、「国家の介入、政策の不確実性、政府の厳しい監視なども挙げられる」という。コロナ後の経済活動・人々の行動拡大と、ロシア・ウクライナ問題に端を発した物価高騰、セキュリティ問題などで国家の介入はさまざまな分野に及ぶことが懸念される。日本でも、経済安全保障法など新たな法制度がどのような影響を及ぼすのか注意する必要がありそうだ。

PHP総研グローバル・リスク分析プロジェクト

2023年に日本が注視すべきグローバルなリスクを展望する『2023年版PHPグローバル・リスク分析』(PHP総研グローバル・リスク分析プロジェクト発行)では、トップリスクを「国際秩序再編で攪乱要因となる『弱りゆくロシア』」とした。

「ロシアによるウクライナ侵略は、自分たちが当然視している合理性をもとに情勢判断するあやうさを白日の下にさらすことになった。(中略)ロシア・ウクライナ戦争が示す力関係の現実やその過程におけるダイナミズムが、これからの国際秩序のありようを左右することは間違いない」。

また、10位に掲げた「繰り返される『見落としリスク』」は、これまで上げたリスクの盲点を補うものとして興味深い。本レポートでは、「『予測不可能』な事態とは、実は、『望まない』結果を招く情報の『認知バイアス』による見落とし」と表現する。国際情勢のトレンドを前提とする先入観や現状維持バイアスが働くことによって、「予測しやすい」又は「期待する」結果を導く情報や分析コメントに報道が偏重し、異質な情報は例外扱いとなることに警鐘を鳴らしている。結果として、地政学上「誰も望まない」事態が、双方が予期せぬ対応の相互作用で引き起こされる可能性があるとする。例えば、「ゼレンスキーの言動には、背後に一切の妥協を許さない強硬なナショナリズム勢力があり、プーチンの「核使用」口実トリガー要因になりうる」。また、習近平3期目は、対外強硬的性格が強いと認識されるが、「台湾人の多くが現状維持を欲しており、中国の圧力に屈しないとの前提で、日米の専門家等は、危機シナリオにおける対応を検討しているが、戦争を望まない台湾人が親中路線を選択し、平和的に統合されるシナリオが及ぼす安全保障上のリスク考慮が不十分」との懸念もあるとする。

【2023年版PHPグローバル・リスク分析】
https://thinktank.php.co.jp/wp-content/uploads/2022/12/risk2023.pdf

 

1. 国際秩序再編で攪乱要因となる「弱りゆくロシア」
2. 米露影響力低下で再編進む中東秩序と取り残される日本
3. 対露エネルギー制裁で深まる三重の分断
4. 低インフレと超金融緩和の終焉がもたらす世界マネー動乱
5. 再び露呈する核抑止パラドックス
6. 中国がロシア・北朝鮮と引き起こす同時多発的な緊張の高まり
7. 振れ幅大きい米国(Volatile America)に振り回される世界
8. 新冷戦で崩壊する中露依存の欧州成長モデル
9. 現実世界に直接的な影響を与え始めるサイバー脅威
10. 繰り返される「見落としリスク」

自然災害リスク

上記以外では、自然災害リスクについても十分に備えておく必要がある。昨年は、3月に宮城・福島を中心に最大震度6強を観測する地震が発生し、その影響で初の電力逼迫警報が発令された。9月には史上最強クラスとも言われた台風14号が上陸。災害リスクは今後も高まることは間違いない。世界に目を向ければ、韓国では首都ソウルの一部で洪水が発生し、パキスタンでは国土の3分の1が水没する事態に見舞われている。企業は引き続き、災害対応や事業継続の見直しが求められる。

近く、世界経済フォーラム(World Economic Forum)からは毎年恒例の「グローバルリスク報告書2023」も発表される。年頭にあたり、これらの情報を参考に、自社のリスクマネジメントを見直してみてはどうだろう。