2023/04/10
事例から学ぶ

家電量販店ヤマダデンキを擁するヤマダホールディングス(ヤマダHD、群馬県高崎市、山田昇代表取締役会長兼社長)は、家電量販業界で最初に気候変動対応のTCFDに賛同を表明。業界トップとしてリスクと機会の情報開示を行うだけでなく、CO2の排出削減に向けた実効性のある対策を目指している。全社的なサステナビリティ活動を展開するための組織体制も整備した。同社の取り組みを紹介する。
記事中図表提供:ヤマダHD
ヤマダホールディングス
群馬県
※本記事は月刊BCPリーダーズvol.37(2023年4月号)に掲載したものです。
❶気候変動対応をTCFD開示に終わらせない
・家電量販業界で最初にTCFDに賛同。単に情報開示だけではなく、実質的なCO2の排出削減に向けて社内の推進体制を整えプロジェクトを開始。
❷現場から直接リスクを収集して分析・整理
・国内全店舗とグループ会社、拠点からリスクを収集して分析・整理。現場から直に吸い上げることでリスクの全体を俯瞰的に把握、担当者の理解を促進。
❸本気度が伝わる情報開示を金融庁が評価
・算定方法まで記載したScope1・2・3のCO2排出量開示が、金融庁から好事例として評価。実質的な排出削減を目指す本気の姿勢が伝わる。
気候変動対応の推進体制を整備
ヤマダHDの執行役員で経営企画室長とサステナビリティ推進室長を務める清村浩一氏は「気候変動の担当責任者として実感するのは、情報開示だけに終わらない実効性のある対応を実施しなければならないこと。非常に苦労していますが、それでもやらなければならない」と力を込める。
同社が気候変動リスクのTCFD(※1)に賛同を表明したのは2021年3月。「当時はまだ任意でしたが、社会的な要望が高まっている時期。家電量販業界で最初にTCFDに賛同を表明したのがヤマダです。業界トップとして、リスクと機会の整理・開示だけではなく、実質的なCO2の排出削減にまで踏み込むべきと考えました」
TCFDへの賛同表明以降、同社は推奨項目に沿った対応を進めている。ガバナンス体制は既存のCSR委員会を改編し、気候変動に関わる基本方針や重要事項を検討するESG・サステナビリティ推進委員会を設置。代表取締役が委員長を務め、各事業本部取締役や監査役、各事業セグメント責任者、サステナビリティ推進室長が委員として参加する。
事務局は、内容に応じてSDGs推進部と人事部、総務部が担当。TCFDに沿った気候変動に関する情報開示のため、Scope(スコープ)1・2・3(※2)のCO2排出量の分析と目標を設定するプロジェクトチームも発足させた。このプロジェクトの事務局はサステナビリティ推進室が務めている。
ESG・サステナビリティ推進委員会で検討された内容は、経営会議で審議のうえ決定。年に2回程度、取締役会に報告している。
※1 TCFD:国際金融の監視などを行う金融安定理事会が設立した気候関連財務情報開示タスクフォースで、2017年に気候変動のリスクと機会に関する情報開示を企業に推奨することを提言。
※2 Scope(スコープ):企業が事業においてCO2排出量を測定する範囲。スコープ1は自社の直接的な排出、スコープ2は自社が使う電気など間接的な排出、スコープ3はサプライチェーンなど自社の事業活動に関連する他者の排出。スコープ3にはさらにカテゴリと呼ぶ分類がある。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方