裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です
労働基準法施行規則及び指針等の改正により2024年4月から適用

毎熊 典子
慶應義塾大学法学部法律学科卒、特定社会保険労務士。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会評議員・認定講師・上級リスクコンサルタント、日本プライバシー認証機構認定プライバシーコンサルタント、東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー、日本テレワーク協会会員。主な著書:「これからはじめる在宅勤務制度」中央経済社
2023/08/16
ニューノーマル時代の労務管理のポイント
毎熊 典子
慶應義塾大学法学部法律学科卒、特定社会保険労務士。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会評議員・認定講師・上級リスクコンサルタント、日本プライバシー認証機構認定プライバシーコンサルタント、東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー、日本テレワーク協会会員。主な著書:「これからはじめる在宅勤務制度」中央経済社
労働基準法施行規則及び指針等の改正により、2024年4月から裁量労働制の導入・適用に新たな手続きが必要となります。そこで、今回は、改正による裁量労働制の見直しポイントについて解説します。
裁量労働制は、みなし労働時間制の一種です。裁量労働制には、専門業務型裁量労働制(以下、「専門業務型」といいます)と、企画業務型裁量労働制(以下、「企画業務型」といいます)の2種類があります。専門業務型は、法令で定められた専門性の高い業務についてのみ適用が可能です。一方、企画業務型は、事業の運営に関する企画、立案、調査及び分析の業務に従事する場合に適用が認められます。
裁量労働制を導入・適用するにあたっては、法令で定められた要件を満たす必要があります。対象業務が法令に適合していなかったり、就業規則や労使協定等の手続きに問題があるなどにより、裁量労働制の適正性が否定されてしまうと、対象労働者にそれまで適用していたみなし労働時間が不適切であったことになり、不払い分の割増賃金を支払うことが必要となってしまうので注意を要します。
【裁量労働制の導入・適用要件の概要】
区分 | 専門業務型 | 企画業務型 |
対象業務 |
法令で定める20業務 |
事業運営に関する企画、立案、調査、分析の業務 |
就業規則 |
根拠規定が必要 |
根拠規定が必要 |
労働基準監督署への届出事項 |
以下の事項について労使協定を締結し、労働基準監督署へ届出が必要 |
労使委員会を設置し、以下の事項について委員の5分の4以上で決議し、労働基準監督署へ届出が必要 |
(1)専門業務型の主な改正内容
①対象業務の追加
専門業務型の対象業務に、いわゆるM&Aアドバイザリー業務が追加され、現行の19業務から20業務に拡大されます。
【専門業務型の対象業務】*下線部分は2024年4月改正による追加事項
1 新商品、新技術の研究開発の業務 |
②新たな労使協定の締結・届出
2024年4月以降、新たに、又は継続して専門業務型を導入・適用するすべての事業場において、(ア)制度の適用に当たって労働者本人の同意を得ること、(イ)制度の適用に労働者が同意しなかった場合に不利益な取扱いをしないこと、(ウ)制度の適用に関する同意の撤回の手続き、(エ)各労働者の同意及び同意の撤回に関する記録を保存することを定めた労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
③健康・福祉確保措置の追加
専門業務型の健康・福祉確保措置は、企画業務型における健康・福祉確保措置と同等のものとすることが望ましいとされており、今回の改正により、健康・福祉確保措置の決定にあたっては、次の(ア)及び(イ)(*下線部分は2024年4月改正による追加事項)からそれぞれ一つ以上の措置を実施することが望ましいとされています。
(ア)事業場の対象労働者全員を対象とする措置 |
(2)企画業務型の主な改正内容
①同意の撤回の手続きの定め・撤回に関する記録の保存等
同意の撤回の手続きと、撤回に関する記録を保存することを労使委員会の決議に定める必要があります。
②対象労働者に適用される賃金・評価制度の説明
使用者が労使委員会に対して、対象労働者に適用される賃金・評価制度について説明することが義務付けられ、次の対応が必要となります。
・賃金・評価制度の内容についての使用者から労使委員会に対する説明に関する事項を労使委員会運営規程に定めること
・賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うことを労使委員会の決議に定めること
③労使委員会の運営に関する見直し
労使委員会の運営方法が見直され、労使委員会運営規程の記載事項として、次の事項が追加されます。
・制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項
・労使委員会の開催頻度を6か月以内ごとに1回とすること
④定期報告の頻度の変更
定期報告の頻度が変更され、労使委員会の決議の有効期間の始期から起算して初回は6か月以内に1回、その後は1年以内ごとに1回になります。
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