2013/08/02
防災・危機管理ニュース
RMFOCUS Vol.46より
株式会社インターリスク総研 コンサルティング第三部 災害リスクグループ
上席コンサルタント 佐藤 公紀
1. はじめに
2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、政府機関は超巨大地震の予測が十分でなかった反省を踏まえ、従来から東海地震、東南海地震、南海地震として3つの領域で評価されていた南海トラフの地震を、全体で1つのより大きな震源域ととらえ、現在の科学的知見に基づく最大クラスの地震、津波として再評価している。
政府機関が公表する地震評価や被害想定は、広域的な防災対策の立案、応援規模の想定や防災対策の必要性を国民に周知すること等が目的とされている。これらの地震評価や被害想定を企業防災に対して有効に活用するためには、評価にあたっての基本的な条件設定や被害想定の内容を把握し、各企業に必要な情報を適切に選び取る必要がある。
本稿では、地震評価や被害想定の企業防災への活用を目的として、地震調査研究推進本部と中央防災会議が2012年から現在にかけて公表した南海トラフの地震に関する評価結果および被害想定について概説するとともに、これらを企業防災に活用する際の着目点を解説する。
2. 地震調査研究推進本部 の地震評価
地震調査研究推進本部は2013年5月24日に「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)」(以下、第二版とする)を公表した。2001年に公表された長期評価との主な違いを表1にまとめる。
今回公表された第二版の最大の特徴は、過去に南海トラフで発生した地震の多様性を考慮した点にある。南海トラフの地震は、歴史記録や海底堆積物、津波堆積物などの地質学的な証拠から、南海トラフ地震として確認できる最古の白鳳(天武)地震(684年)から昭和南海地震(1946年)まで、100年〜200年間隔で繰り返し発生していることがわかる(図3)。
これらの地震の多くは、南海地域で発生する地震、東海地域で発生する地震、両者が同時に発生する地震に大別され、それぞれの地震規模も異なるなど、多様性に富むことが最近の研究成果で分かってきた。
第二版では多様な震源パターンを考慮し、地震規模、発生確率ともに、ある程度の幅を持った形で、南海トラフ全域を一体として評価している。今回示された地震評価結果と2001年に示された従来の地震評価結果を表2にまとめる。
ここで、地震の発生確率、発生間隔は2013年評価(第二版)2001年評価とも、に時間予測モデルを採用している。時間予測モデルとは、次の地震までの時間間隔が前回の地震の規模に応じて変化する、というモデルであり、前回の地震の規模が大きい(断層上のすべり量が大きい)と次の地震までの時間間隔が長くなると考える。
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17









※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方