2013/08/08
防災・危機管理ニュース
イアン・ブレマー自身も、「Gゼロ世界ではグローバルなリーダーシップを発揮できる国家が存在しないことから、適応性や柔軟性、行動力があり、また1つのものに過度に依存せず、さまざまなリスクを分散できる国家(ピボット国家)というものがGゼロ世界の勝者になれるだろう」と述べていることから、例えば日本自身も石油の輸入先を中東一極から中央アジアやアフリカ、中南米へ多角化させたり、資源開発でロシアとの経済協力を強化したりするなど、今まで経済交流が手薄だったような地域・国家と新たな関係を構築し、戦略的な経済開拓政策を実施していくことが望まれる。安倍政権のメンバー達は、発足当時から経済をキーポイントに今日までロシア、サウジ、UAE、トルコ、カザフスタン、ミャンマー、メキシコ、ペルー、ブラジル、サウジアラビア、ウクライナ、ポーランドなど多くの国々を訪問し、安全保障や経済、エネルギー分野での独自の関係強化に努めているが、これは日本の長期的未来を考慮すれば非常に有効な経済戦略である。
イアン・ブレマーの論理が現実になるかは分からない。しかしその前兆は既に表面化していることから、日本企業の多角的な海外進出は一層強化されるべきであろうし、何より日本経済の発展を考えればそうせざるを得ないだろう。しかしGゼロ世界は内戦やテロの増加、資源獲得競争の激化など多くの不安定要因も内在していることから、今以上にセキュリティ面の強化が必要になってくる。進出する特定地域・国家の政治事情や治安情勢を熟知し、何か起こった場合の危機管理対策を構築しておくことは、Gゼロ世界を生き抜いていく上では回避できない。そのような意味で日本版NSC(国家安全保障会議)の運用開始や危機管理分野における官・民の協力関係を強化することは、今日の日本社会にとっての急務であろう。
報告者紹介:和田 大樹 (わだ・だいじゅ) ![]() 1982 年4月生まれ。専門分野は国際政治学、外交・安全保障政策、国際テロリズム論、国際危機管理論などで、現在は国際テロやG0世界論、グリーン経済と紛争リ スクの関係などを中心に研究し、外国の研究機関や学会をはじめ、専門誌や新聞、論壇誌、企業誌、警察・公安誌などに論文や解説を発表。発表論文に、 “Perspectives on the Al-Qaeda”(CTTA March.2011, ICPVTR,南洋工科大学)。今日大学で講師やフェローを務める一方、学会の主任研究員やコンサルティング会社のアドバイザーなどを兼務。所属学会に日 本国際政治学会や国際安全保障学会、日本防衛学会。 Email: mrshinyuri@yahoo.co.jp |
- keyword
- 海外リスク
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方