2024/06/17
システムトラブル多発の背景と対応への取り組み
組織横断プロジェクトで綿密な計画と事前の検証を

PwCコンサルティング パートナー
上村益永氏 うえむら・よしひさ
通信キャリアにて、商用ネットワークの構築プロジェクトや渉外業務を経験した後に入社。主に製造業・ハイテク・金融業・政府に対する情報セキュリティー、制御セキュリティー関連のアドバイザリー業務に従事。PwC JapanグループにおけるOTセキュリティー領域のリーダーを務める。
PART1では、企業を取り巻くデジタルリスクの現状と課題を見てきた。ここでは、モノの生産や出荷に直接関わる工場のシステムに焦点をあて、現状と課題を見ていきたい。実際、OT がITと融合してインターネットにつながることにより、生産環境にはこれまでにない脅威が侵入している。PwCコンサルティングの上村益永氏に、工場のシステムリスクとセキュリティー対策の取り組みを聞いた。
ITとOTはそもそもの目的が違う
――最近よく聞く「OT セキュリティー」とは?
OTすなわちオペレーショナル・テクノロジーとは、モノの生産ラインやシステムの制御・運用技術のこと。この技術にわるセキュリティーを指して「OTセキュリティー」と呼ぶ。ただ、問題を複雑にしいるのは、昨今この技術のなかにインターネットにつながるITが多分に含まれるようになってきたことだ。
オペレーショナル・テクノロジーの領域でも、ITに起因するものは「ITセキュリティー」と呼ぶ会社もある。一方で、工場や研究所の中にある技術であれば、ITであってもOTセキュリティーと呼ぶ会社もある。言葉の定義自体が定まっていない。
定義があいまいだと、取り組みもあいまいになる。オペレーショナル・テクノロジーのセキュリティーに取り組む際は、どの範囲をもってOTとするのかを、企業ごとあらかじめ明確化することが必要だ。そうしないと、あとで食い違いが生じる場合がある。

――OT セキュリティーとは、つまりは工場や研究所の中のIT セキュリティーをどうするかという問題か?
そう単純ではない。というのは、ITとOTはそもそもの目的が違う。端的にいえば、ITは主に事務作業を効率化する技術。これに対しOTは、生産やサービスを自動化したり高度化したりする技術だ。OTはいわば、企業の本分に関わる。
確かに、昨今のOTセキュリティーリスクの高まりは、OT環境のなかでITがふんだんに使われるようになったことに起因している。企業のコア事業を高度化する手段としてITが使われるようになり、そこから新たなリスクが侵入しているのは事実だ。
ただしそれは、サイバーセキュリティーに限った話。サイバーに限らなければ、OT環境特有のリスクは以前から多数存在する。例えば、生産工程をシステム化すればシステムリスクがともなう。ITの場合それはあくまでデータ上のリスクだが、OTはロボットアームを動かしたり、金属を燃やしたり、化学薬品を合成したりするがゆえに、人身事故や環境汚染といった物理的リスクも生じる。
見方を変えれば、システムリスクとしてOT固有のインシデント、例えば動作停止、誤作動による事故や爆発、有害物質の漏えいといったインシデントは以前から常にある。それを引き起こす原因が、人為的ミスオペレーションだったり、通信障害だったり、停電だったり、あるいはサイバー攻撃だったりするわけだ。
ただ、このうちミスオペレーションなどは、特に製造業やインフラ企業では以前から手厚い対策を実施してきた。ダブルチェック、立ち入り禁止区域の設定、安全具の着用などだ。そのため、ある程はリスクをコントロールできるようになってきている。
しかしサイバーセキュリティーは、いままで工場内ではリスクが顕在化していなかったために、まだリスクがわからず、対策も講じられていない。結果、ほかの原因に比べ、インシデントを生みやすくなっている。
インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/26
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方