2024/07/16
インタビュー
「人で守る」 から「仕組みで守る」時代

工場やプラント、倉庫の設備やシステムを最適に動かす制御・運用技術(OT:オペレーショナル テクノロジー)のリスクは情報セキュリティーだけにとどまらない。安全面の技術が伝承されていないなど、ほかにも課題は多いという。横河デジタルソリューションビジネス事業本部の田嶋信太郎氏に日本のOTにおける課題を聞いた。
ーー生産工場や物流などの制御システムが抱える OT リスクが注目されている。
生産工場などを管理、運営する上で、重要な要素にProductivity(生産性)、Quality(品質)、Cost(価格)、Delivery(納期)、Safety(安全)がある。以前は高品質な製品(Q)を、短い納期(D)で、低コスト(C)に生産することが求められていたが、現在は効率性と安全性を含め、それぞれの頭文字をとって、PQCDSと呼ばれている。
Iotに代表されるテクノロジーがOTで注目され、導入が進んでいる。だからこそ、OTセキュリティー対策が重要だと言われている。だが、そういったOTリスクはあくまでテクノロジーを活用できる、PQCDに関連する分野のみ。SのSafetyに関しては、デジタル化が困難だ。最大の課題は安全を確保する技術が伝承されず、生産過程のリスクが高まる可能性があることだ。
ーーなぜ生産過程でリスクが高まっているのか?

これまでの日本の工場は高い技術に支えられ、生産過程の安全性が確保されてきた。それは、一つに日本では転職が少なく、人材の流動性が低いために長期間にわたり工場で生産に関わり、経験を積めたことが大きい。海外なら流動性が高いために、人の入れ替わりが激しく、人という資源を頼りにできず仕組みで守るしかなかった。だからこそ、IEC61511のような国際規格を活用して、工場の安全性を確保してきた。
ただ、近年の日本は多くの技術者が定年退職し、生産過程の危険性の把握やインシデントが発生した際の対応に精通している人が少なくなっている。テクノロジー進展や効率化が進み、以前に比べて生産に関わる人材が減っている影響も少なくない。
残された担当者の中でも、生産過程の安全性を確保するすべを把握しているのは一部のみ。なぜなら、すべを取得するには、どうしても経験という長い時間が不可欠だからだ。これまでは、特別な対応をしなくても工場の機能的安全性を維持できてきたが、これから10年、20年先の人材不足を考えると人材の優秀さが仇になったとも言える。
時間の流れは止められない。このまま施設の老朽化が進み、人材不足が続けば、生産過程での安全性が保証されなくなる。我々の業界では、一度でも火災や爆発事故を起こすと、工場はそのままでは再稼働できない。一発でアウトになるために「ワンストライクアウト」と表現し、生産過程の安全を確保する重要性を説いてきた。現在残っている人材からの知識や経験の、早急な伝承が求められている。
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