2024/07/14
防災・危機管理ニュース
国の安全保障に関わる「特定秘密」を巡り、海上自衛隊艦艇を中心に不正な取り扱いの常態化が発覚した問題は、海自トップが19日付で引責辞任する事態に発展した。特定秘密保護法自体が海自の現場の実情と乖離(かいり)し、実力組織の指揮官も法を熟知していないなど、根底には「ずさんな管理」という言葉だけでは片付けられない複合的な要因がうかがえる。
「今回の事案を受けて、そうだったのかと」。引責辞任する酒井良海上幕僚長は12日の記者会見で、海自中枢の海上幕僚監部でさえ、特定秘密保護法の根幹である「漏えい」の定義を認識していなかったことを率直に認めた。2014年の同法施行以来、定義を認識せず不正な扱いをしていた可能性にも言及した。
防衛省によると法解釈上、特定秘密を外部に漏らすだけでなく、特定秘密を扱えない無資格者が知り得る状態にすれば「漏えい」と定義される。政策立案を担当する「背広組」と呼ばれる同省内部部局は定義を知っていたが、海幕は部隊教育もしていなかった。同省は「定義について陸海空各自衛隊に周知していた」と釈明するが、制服組と背広組の風通しの悪さは、シビリアンコントロール(文民統制)上の危うさも露呈した。
特定秘密を扱うには「適性評価」を受けなければならないが、プライバシーに関わる調査があるため「必要な者に範囲を限って行う」とされ、海自は対象者を必要最小限度にとどめてきた。今後、2000人増やす方針だが、資格を得るには一定期間がかかる。
今回の不正にはイージス艦も含まれていた。特定秘密に関係する潜水艦探知や弾道ミサイル防衛の情報を扱う戦闘指揮所(CIC)には、無資格者の伝令要員も勤務していたとみられるが、閉め出されることになる。自衛隊内では「CICに伝令は必要なのに、有事に対応できるのか」との声がささやかれる。
今回処分を受けた護衛艦「あけぼの」のケースは、昨年11月に中東での海賊対処活動中、ミサイル発射関連情報が入電した緊急事態下での漏えいだった。当時の艦長はミサイルで攻撃される可能性が否定できず、CIC総員の情勢認識の共有のため大型スクリーンに特定秘密を表示したが、その場に無資格者1人がいたことが漏えいと判断された。
政府は防衛や外交の領域から、経済・技術などの経済安全保障の民間分野にも厳格な情報保全制度の網を広げようとしている。今回発覚した問題は、秘密でがんじがらめにすれば現場が回らず、組織に不正な運用がはびこるリスクも示唆している。
〔写真説明〕19日付で辞任する酒井良海上幕僚長=12日、東京都新宿区
〔写真説明〕特定秘密の不正な取り扱いなど相次ぐ不祥事に揺れる防衛省=12日、東京都新宿区
(ニュース提供元:時事通信社)


防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方