広域避難の徹底を

常総市では、つくば市など近隣自治体と水害に備えた協議はしたことがなかった。これが、例の「あり得ない」と耳を疑う声も出た避難誘導の失態につながる。「鬼怒川西側に避難してください」。堤防決壊直後、鬼怒川の東側地域に、市の防災無線が呼びかけると、戸惑う市民が出た。増水中の鬼怒川に向かい、橋を渡ることになるからだ。「極めて危険」と判断して指示に従わなかった人もいた。反対側の東側にはつくば市が広がる。「市内で避難を完結しようとした」と市の幹部は語り、「事前に他の自治体と災害協定を結んでおくべきだった」と反省の弁を述べた。水害時、常総市では全避難者の4分の1以上に当たる約1700人が自主的に市外に避難している。

大水害後、常総市など流域10市町と茨城県、国交省でつくる「減災対策協議会」は、流域全体の減災対策方針を決めた。住民の逃げ遅れをなくすため、今後5年間で実施する避難対策とその実施時期を明示した。国土交通省によると、複数の市町村が連携し、河川の氾濫対策に一体となって取り組むのは全国でも初めてという。流域10市町が住民に避難勧告・指示を出すタイミングを判断する「タイムライン(事前防災行動計画)」を策定する。これに基づき、訓練や防災教育にも取り組む。

国交省は常総市でスマートフォンや携帯電話に洪水情報をメールで一斉配信する情報提供を始めている。今後、対象の河川や地域を増やし、5年以内に国が管理する109水系まで拡大する方針である。

全国に先駆けたマイ・タイムライン

この大水害で浮き彫りになった多数の逃げ遅れの解消策として、従来の行政主体のタイムラインより更に一歩踏み込んだ「マイ・タイムライン」(個人避難計画)が、水害から2年後、常総市民によって作成された。地域対象ではなく、家庭や個人に絞って逃げ遅れを防ごうという全国初の試みだ。市民一人一人が地域の特性を理解し個別に「避難計画」をつくという画期的な取り組みである。

鬼怒川と小貝川の氾濫被害の軽減を目指す「減災対策協議会」(国交省関東地方整備局、流域10市町、筑波大学などで構成)は、豪雨時に鬼怒川が越水した若宮戸と根新田の2地区をモデルに選び、昨年(2017年)11月から検討会をスタートさせていた。若宮戸地区では第1回で大河川に挟まれた地形の特徴などを学習した。市民41人が参加した。大半が被災者で、水害が起きやすい地域に住んでいることを改めて学んだ。

第2回の今回は洪水時の行政情報(避難勧告・避難指示)などを学んだ上、参加した市民同士で、どんな行動をとればいいか意見交換した。そして国交省が用意した専用ノートに従ってまず、参加者は「どこへ誰が避難するか」「避難にかかる時間はどれくらいか」「どんな準備が必要か」などを自分の家族構成や自宅周辺の地形などを考慮して書き出した。さらに国や市からの豪雨や洪水情報をもとに「氾濫発生の何時間前には避難を完了したか」「避難開始は何時間前にするか」を決めた。家族との連絡方法など具体的な手順を書き込んだ。アドバイザーとして参加した川島宏一筑波大学教授は「リュックに必要なものを入れておくなど、避難への意識を日頃から日常生活に溶け込ませておくことが大切だ。マイ・タイムラインをきちんと理解して家族たちにも伝えて共有化して欲しい」と助言した。

謝辞:朝日新聞の関連記事を引用させていただいた。感謝いたしたい。

参考文献:朝日新聞・毎日新聞関連記事、国土交通省・常総市役所関連資料

(つづく)