2024/08/31
事例から学ぶ

主力の「スーパードライ」に代表されるアサヒビールをはじめ、アサヒ飲料、アサヒグループ食品などの日本事業を統括するアサヒグループジャパン(東京都墨田区、濱田賢司代表取締役社長兼CEO)。同社は大規模災害発生時の帰宅抑制に取り組む。対象となるのは、本社ビルに勤務する傘下の従業員約3000人。本社ビルに特化した対策を進め、従業員の安心感を高めることで、滞在の理解を得ようとしている。
❶滞在フロアを事前に決定
・非常用電源の消費節約や効率的な対応のために、各フロアを事前に区分けする
❷建物専用の滞在マニュアルを作成
・滞在フロア、備蓄品の保管場所、トイレの使用可否などの必要な情報を具体的にまとめ、印刷して手の届くところに配置
❸滞在の協力を得るために周知を工夫
・社長の協力といった誰もが目を向くような企画を考える
災害時の安全配慮義務
隅田川沿いでひときわ目立つ建物であるアサヒグループ本社ビル。泡立つビールが注がれたジョッキに見立てた特徴的な姿は、隣接するスーパードライホールの屋上に設置された炎のオブジェとともに観光名所となっている。
このビルの12階で、アサヒグループジャパンの執行役員で総務部長の藤崎孝志氏は、一斉帰宅の抑制について「東日本大震災でこのビルも揺れ、多くの従業員が帰宅困難者となりました。安全配慮義務の一環として取り組みに力を入れる必要があります」と説明する。総務部危機管理グループリーダーの吉岡仁氏も「首都直下といった大規模地震発生時に無理に帰らず、安全な会社に留まることを社員に理解してもらうことが我々の責務です」と話す。
同社は、主力商品に「スーパードライ」を持つアサヒビールをはじめ、アサヒ飲料、アサヒグループ食品など、アサヒグループホールディングス傘下で日本にある事業会社を統括。各社が入居するアサヒグループ本社ビルに勤務するアサヒグループの従業員約3000人が3日間滞在できる帰宅抑制対策を進めている。在宅勤務、リモート勤務により現在の出社率は3割強だ。
3日間の滞在に向けて決めたのが、22階建ての本社ビルの各階を役割で区分けすることだった。吉岡氏は「災害時の非常電源などのリソース節約や対応の効率化のため」と説明する。
このタワーに設置している非常電源による電力供給は13階まで。そのため滞在は13階以下に限定する。人の往来が最も多い1階は、来客や避難してきた地域住民が滞在するフロアに設定した。
1階は隣接する墨田区役所からの依頼があった際は開放し、100人ほどを受け入れる。従業員が就寝するのは3階で、男女別にエリアを分け、体調の悪い従業員は4階で過ごす。応急手当などは看護師が在駐している13階の健康管理室で行う。

従業員の滞在フロアは5階から11階になる。12階の備蓄倉庫は、取り出しやすさを第一に考え、飲料水や食料、簡易トイレ、毛布などを並べている。寝袋だけでも700個を数えるという。光源として明るさの異なるランタンを揃え、フロアや廊下、トイレといった照らす場所にあわせて使い分ける。13階の食堂では、主に食料配布を行う。調理用にお湯の利用も想定している。
備蓄品は12階の倉庫とは別に、各フロアのキャビネットに飲料水や救急箱、200回分の簡易トイレといった基本的な防災用品を保管している。このキャビネットには「大規模災害時初動対応ガイドブック」と「災害時生活マニュアル」を備えている。後者は本社ビルでの滞在ガイドとして2023年に完成したものだ。
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