2024/08/18
防災・危機管理ニュース
中国各都市で運転席に誰もいない無人の自動運転タクシーの導入に向けた動きが急速に進んでいる。中でも、湖北省武漢市では最も広い地域で商用サービスが許可され、新たな「市民の足」として定着しつつある。一方で、仕事を奪われかねない一般タクシー業界は危機感をあらわにしており、既存産業とのあつれきも表面化し始めた。
◇運転はスムーズ
8月、炎天下の武漢市内。通常の配車サービスと同様、専用アプリに乗車地と目的地を打ち込むと、無人タクシーが迎えに来た。車内は空調が効いており、シートベルトを締めると出発。車内モニターでは目的地までの経路や周囲の交通状況を確認でき、音楽も楽しめた。
運転も極めてスムーズで丁寧だ。センサー技術「LiDAR(ライダー)」やカメラで周囲の状況を常に把握しており、100キロ近いスピードでの走行や車線変更も安定していた。交差点では信号無視をして横断する歩行者がいたが、それを正確に認識し、距離を置いて停止した。
運賃は有人タクシーと比べ、4割ほど安い。導入当初、安全面を不安視していた市民からの評判も上々だ。ただ、乗車・降車地点があらかじめアプリ内で限定されているなど実際の利用には制約もあり、利便性には解決すべき課題も残る。
◇「事故ゼロ」主張
無人タクシーを運営するのは業界にいち早く参入したIT大手「百度(バイドゥ)」。武漢では安全監視員が乗車しない完全無人タクシーが400台以上運行し、1台当たり1日に20回以上サービスを提供。来年に市内の営業収支は黒字化すると見込んでいる。バッテリー交換や車内掃除の自動化などでコスト削減も図る。
百度は北京など11都市でサービスを展開しており、今年4月中旬までに総走行距離は1億キロを突破。600万回のサービスを提供した。懸念される安全面では「無人タクシー側が原因となった事故はゼロ」と主張している。
◇苦情で運行地域縮小
ただ、無人タクシーは交通法規を厳格に守るために一時停車することも多く、武漢では通勤時間帯に渋滞の原因になっていると苦情も出ている。また、運賃の安さは一般のタクシーの脅威となっており、「収入が激減した」と不満を募らせた運転手らが規制を求めて市当局に押し寄せる騒ぎも起きた。
市当局からの要請を受け、最近は無人タクシーの運行可能地域が縮小され、空港や鉄道駅、市中心部での利用ができなくなった。当局や百度はタクシー運転手らの言い分に配慮しつつ、無人タクシーの普及を図るという難しいかじ取りを迫られている。
それでも、百度は武漢で無人タクシーをさらに増やす方針で、「市民の足」としての浸透は止められそうもない。武漢で配車サービスに従事する運転手は「無人タクシーの運転は障害物との距離感など、われわれよりも運転が安定している。われわれの仕事が奪われるのは確実だ」と危機感をにじませる。一方で「技術の進歩は仕方がない」とも語った。
〔写真説明〕中国の無人タクシーに設置されたモニター。周囲の交通状況が確認できる=4日、湖北省武漢市
〔写真説明〕中国の無人タクシー=4日、湖北省武漢市
〔写真説明〕中国の無人タクシーの車内=4日、湖北省武漢市
(ニュース提供元:時事通信社)



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