2024/09/24
人権尊重という企業責任
人権を尊重したサプライチェーンの構築が求められている。先行して法整備を進めてきた欧州を中心に、各国で規制強化が進む。日本政府も2022年にガイドラインを策定し、取り組み支援に動き出した。日本企業が人権を尊重する活動である人権デューデリジェンスに取り組むために、何が必要か。グローバルなプラットフォームでサプライヤーの労働環境を含めたESG関連の情報収集と分析、提供などを行うSedex。同社のインプルーブメントエグゼクティブである山本梓氏とリレーションシップマネージャーの日野陽介氏に聞いた。

人権に配慮した責任ある調達とは

ーー人権デューデリジェンス(DD)を含めた企業が求められる責任ある調達について、世界的な動向はどのようになっていますか?
山本梓氏(以下、敬称略):最近の動向で最も影響が大きいのは、企業のサステナビリティ関連の情報開示を強化するためにEU法として制定され、2023年1月に発効したCSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)。そしてEU域内外の企業に対して人権と環境のDD実施を義務づけた欧州議会の本会議で2024年4月に採択されたCSDDD(Corporate Sustainability
Due Diligence Directive)があります。欧州域外の海外の企業も欧州内である程度の売上を上げていれば、規制の対象になります。
規制の拘束力も、以前はソフトローといって、取り組みを求めても任意性が高かったのですが、最近では取り組みを強く要求するハードローにプラスして、罰則といったペナルティーが課されるようになっています。
日本では政府がソフトロー的なアプローチに留まっているのが現状です。一方、サプライチェーンの末端でさまざまな問題が起こっている東南アジア諸国では、法規制はないとしても実務的に適応し、先進的な取り組みが進んでいる印象です。
ーー人権に配慮した責任ある調達の取り組みの特徴は何でしょうか?

山本:サプライチェーンの人権問題に関しては、特有の難しさがあると感じています。気候変動に対処するための国際的な枠組みであるパリ協定と比較すると理解しやすいでしょう。
パリ協定では「世界共通の長期目標として2℃目標の設定。1.5℃に抑える努力を追求する」という世界共通の定量的な目標が掲げられています。しかし、人権問題に関しては、国や地域、文化による特性や問題の複雑性、定性的なデータ測定の難しさなど、脱炭素に向けた取り組みと同じアプローチでは対応が難しいことが多くあります。
よくいただく質問にあるのが、企業としてどこまで取り組めばいいか。これは、誰かが唯一の答えを持っているわけではありません。だからこそ、各社、各人が自ら考える必要があります。
ESGなどの担当者が抱える悩みとしては、実務でサプライヤーと対面している調達部門の協力が得られるか。実際に取り組むときには、調達部門に関わらず、さまざまな部署の協力がなければ進められません。説明会への参加など、いろいろな人を巻き込む必要があります。
- keyword
- ビジネスと人権
- 人権DD
- 人権デューデリジェンス
- 強制労働
- 児童労働
- サプライチェーンリスク
インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方