警備にあたる警察機動隊(出典:写真AC)

警備体制の構築が最大の課題

では、これらのリスクを踏まえ、実際にどのような対策、準備を実施しているのかを紹介します。組織委員会は、本年3月28日に大会セキュリティガイドラインの概略という文書を公表しました。

簡単に言えば、選手や関係者、観客を含め競技会場に入る全ての人、物、車にはX線や金属探知機を使ったセキュリティチェックを行う。そして会場にはチェックを受けた物、車両しか入らせないようにする。これを担保するために全ての会場を高いフェンスで囲み、これを補完するために会場のいたるところにセキュリティカメラを設置します。我々にとってこれらを設置し、運用するだけではなく、こうした措置が講じられることを入場者一人ひとりに理解していただくことも重要です。もちろん、先進機器をいくら使ったとしても、メガイベントにおいてこうした警備をやろうとすれば、相当数の警備員が必要になります。

大きな課題に挙げられるのは警備体制の構築です。警備体制の効率化を難しくする要因が東京にはたくさんあります。1日に必要な民間警備員は、概算段階でも1万人を超え、世界でまったく例のないレベルになると見込まれています。しかも大会期間が1カ月半あるロングラン警備となります。

近年の大会を悩ましているのが、民間警備員の不足です。ロンドン2012大会では、1万人集めると言っていた大規模警備会社が、実際には4000人しか集められませんでした。リオ2016大会でも警備員不足で約2800人の警察官のOBが急遽動員されました。平昌2018冬季大会のときは、ノロウィルスで開幕前に1200人もの警備員が宿舎待機を余儀なくされ、民間警備員が突然不足する事態になりましたが、事前にプランBとして準備されていた陸軍兵士の緊急動員により、大会運営に大きなダメージはなかったそうです。

14社の警備JV構築

我々はオールジャパンで警備員を確保しようと、本年4月、首都圏の警備会社14社からなる大会警備共同企業体、いわゆるジョイントベンチャーを発足させ、覚書を締結しました。最終的には100を超える企業と協力できるのではと期待しています。

莫大な数の警備員の確保を目指す一方で、高性能カメラや侵入検知センサ等、最新鋭の資機材で会場を守る対策も進めています。カメラ性能の向上で一台のカメラの守備範囲が広くなっていますが、東京2020大会では競技会場が点在しているので、設置されるカメラの台数は史上最多になると思います。

顔認証システムの導入

猛暑の東京では、過去の大会でみられた入場待ちの長蛇の列を避けなくてはなりません。東京2020大会では、来場者のチェックを迅速に行うため、オリンピック・パラリンピック史上初めて、選手を含め、身分証の発給を受ける全ての大会関係者に対し、顔認証システムを導入する予定です。識別は人より早く、間違いがありません。導入費用は決して安くありませんが、顔認証システム導入により人的コストが大きくカットできれば、全体として警備費用のコストカットにもつながると考えています。

昨年の8月、効率的なセキュリティチェックのための実験も行いました。こうした実験は過去のオリンピックでは例がないと思います。暑さ対策に危機感を持つとともに、都市との共存のなかで効率的なセキュリティチェックに努めています。この夏にもう一度実証実験を行う予定です。

避難計画・雑踏警備対策

自然災害の発生やテロの襲撃に備え、避難計画も作成しています。避難経路は障がい者の移動も考慮しなくてはなりません。大会前にスタッフへの訓練も実施の必要があります。

雑踏警備対策としては、多くの人が集まり移動する最寄りの駅から競技場までの道のり、ラストマイル対策を進めています。交差点や横断歩道、歩道橋など雑踏事故の可能性のあるところでの安全な誘導が対策ポイントの1つになります。他にも、例えば選手村に宿泊しない人気のある選手が、人が多く集まる場所に突然現れたときにも、対応しなくてはなりません。事前に情報が入る可能性は低いことも対応を難しくします。

サイバーセキュリティ対策

世界中のハッカーの標的になるのがオリンピック・パラリンピックです。我々はサイバーセキュリティ強化のために、過去大会と異なり、サイバーセキュリティ対策を情報システム部門のみに委ねることはせず、警備局も所管するようにしました。

ハッカーの目的は企業内の内部データや個人情報の取得ではなく、大会運営のシステムへの介入です。リオ2016大会では十分な対策が取られていましたが、大会運用システムではなく比較的対策の手薄な州政府や大会特設サイトが集中的に攻撃を受けたと聞いています。大会運営に直接影響のあるシステムのみならず、関連システムのセキュリティ対策のため、大会スポンサー企業や政府機関、重要インフラ業者等との連携も同時に進める必要があります。

最後に、これまでに話してきた対策一つ一つの確実な実施がレピュテーションリスクの回避につながると考えています。

開催まで2年を切りました。皆様と協力して全力疾走していきたいと思います。

(了)