茨城県常総市で2015年に起きた水害被害

避難勧告等の伝達

避難勧告等を発令する際には、その対象者を明確にするとともに、対象者ごとにとるべき避難行動がわかるように伝達すべきである。また、避難勧告等の伝達は、共通の情報を多様な伝達手段を組み合わせることで、広く確実に伝達すべきである。危機的な状況になった場合は、市町村長から居住者・施設管理者等に直接呼びかけることも考えられる。避難準備・高齢者等避難開始の伝達にあたっては、避難に時間のかかる要配慮者とその支援者は避難を開始することを確実に伝達すべきである。また、その他の人については、立退き避難の準備を整えるとともに、急激な水位上昇のおそれがある河川沿いの居住者や、土砂災害警戒区域・危険箇所等の居住者等については、事前予測が困難であることから、避難準備・高齢者等避難開始の段階から要配慮者に立退き避難開始を求めることに加え、その他の居住者等に対しても自発的に避難開始することを伝達すべきである。

防災行政無線は、大量の情報を正確に伝達することが難しいことから、伝達文は簡潔にすること、避難行動をとってもらうために緊迫感のある表現で、対象者がとるべき行動を具体的に示すこと、風雨等で聴き取りづらいことから繰り返すこととすべきである。

避難勧告等を発令する際には、対象者がとるべき避難行動を理解できるよう、どのような災害が、どの地域に発生するおそれがあるのか、どのような避難行動をとるべきか等を具体的に伝える必要があることから、市町村は、予めマニュアル等に災害種別に応じた伝達文を定めておくべきである。
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以下に、防災行政無線を使用して、口頭で伝達する場合の避難勧告等の伝達文の一例を示す。

<避難勧告等の伝達文の例>
1) 避難準備・高齢者等避難開始の伝達文の例
■緊急放送、緊急放送、避難準備・高齢者等避難開始発令。
■こちらは、○○市です。
■○○地区に○○川に関する避難準備・高齢者等避難開始を発令しました。
■○○川が氾濫するおそれのある水位に近づいています。
■次に該当する方は、避難を開始してください。
・お年寄りの方、体の不自由な方、小さな子供がいらっしゃる方など、避難に時間
のかかる方と、その避難を支援する方については、避難を開始してください。
・川沿いにお住まいの方(急激に水位が上昇する等、早めの避難が必要となる地区
がある場合に言及)については、避難を開始してください。
■それ以外の方については、避難の準備を整え、気象情報に注意して、危険だと思ったら早めに避難をしてください。
■避難場所への避難が困難な場合は、近くの安全な場所に避難してください。
2) 避難勧告の伝達文の例
■緊急放送、緊急放送、避難勧告発令。
■こちらは、○○市です。
■○○地区に○○川に関する避難勧告を発令しました。
■○○川が氾濫するおそれのある水位に到達しました。
■速やかに避難を開始してください。
■避難場所への避難が危険な場合は、近くの安全な場所に避難するか、屋内の高いところに避難してください。
3) 避難指示(緊急)の伝達文の例
■緊急放送、緊急放送、避難指示発令。
■こちらは、○○市です。
■○○地区に○○川に関する避難指示を発令しました。
■○○川の水位が堤防を越えるおそれがあります。
■未だ避難していない方は、緊急に避難をしてください。
■避難場所への避難が危険な場合は、近くの安全な場所に緊急に避難するか、屋内の高いところに緊急に避難してください。
■○○地区で堤防から水があふれだしました。現在、浸水により○○道は通行できない状況です。○○地区を避難中の方は大至急、近くの安全な場所に緊急に避難するか、屋内の安全な場所に避難してください。

洪水等に関する情報

洪水予報河川における指定河川洪水予報(水位予測)、水位周知河川における水位到達情報

<避難行動を判断する目安とする水位>
洪水予報河川及び水位周知河川では、避難行動を判断する目安とする水位が河川毎に定められている。なお、洪水予報河川は、流域面積が大きく、洪水により大きな損害を生ずる河川について、その区間を定めて指定される。
洪水予報河川:水位や流量の予報(洪水予報)が行われる河川約400河川
水位周知河川:現状の水位や流量の情報が提供される河川約1600河川
(平成28年3月時点)

氾濫注意水位: 水防団の出動の目安
避難判断水位: 市町村長の避難準備・高齢者等避難開始の発表判断の目安、河川
の氾濫に関する居住者等への注意喚起
氾濫危険水位: 市町村長の避難勧告等の発令判断の目安、居住者等の避難判断、
相当の家屋浸水等の被害を生じる氾濫のおそれがある水位

<指定河川洪水予報及び水位到達情報の名称と発出されるタイミング>
洪水予報河川における指定河川洪水予報、水位周知河川における水位到達情報では、到達した水位に応じた警報等が発表される。指定河川洪水予報、水位到達情報の発表単位に複数の主要な水位観測所が含まれている場合は、そのうち最も危険度が高い水位観測所の水位等に応じた指定河川洪水予報、水位到達情報が発表される。
さらに、洪水予報河川においては、指定河川洪水予報として、各水位への到達にあわせて水位予測が公表される。水位予測は主要な水位観測所毎に発表される。水位予測は3時間程度先までであることが多い。
指定河川洪水予報、

<水位到達情報>
状況(2段に分かれているものは、上段は指定河川洪水予報、下段は水位到達情報を指す)
氾濫発生情報・氾濫が発生した時
氾濫危険情報・氾濫危険水位に到達した時
氾濫警戒情報・避難判断水位に到達した時、あるいは水位予測に基づき氾濫危
険水位に達すると見込まれた時
・避難判断水位に到達した時
氾濫注意情報・氾濫注意水位に到達し、さらに水位の上昇が見込まれた時
・氾濫注意水位に到達した時

避難勧告等の伝達手段と方法

避難勧告等を居住者・施設管理者等に広く確実に伝達するため、また、停電や機器・システム等に予期せぬトラブル等があることも想定し、共通の情報を可能な限り多様な伝達手段を組み合わせることが基本である。

そのために、市町村防災行政無線等、情報の受け手側の能動的な操作を伴わず、必要な情報が自動的に配信されるタイプの伝達手段であるプッシュ型の伝達手段を活用する。ただし、プッシュ型の伝達手段のうち、屋外拡声器を用いた市町村防災行政無線(同報系)での伝達については、大雨等により屋外での音声による伝達が難しい面もあることから、市町村防災行政無線(同報系)戸別受信機、IP(Internet Protocol)告知システム、緊急速報メール、登録制メールやコミュニティFM(自動起動ラジオを使用する場合)等の屋内で受信可能な手段を組み合わせる。

より多くの受け手により詳細に情報を伝達するため、プッシュ型に加え、市町村ホームページのほか、SNS、ケーブルテレビ、コミュニティFM(一般のラジオ端末を使用する場合)、テレビ・ラジオやウェブ、テレビのデータ放送等、情報の受け手側の能動的な操作により、必要な情報を取りに行くタイプの伝達手段であるPULL 型手段も活用して伝達手段の多様化・多重化に取り組む。その際には、より効率的に情報を伝達するため、L アラートも活用することが望ましい。また、市町村のホームページの活用にあたっては緊急時のアクセス増によりサーバーがダウンしないよう回線増設等の対応を検討するとともに、市町村に問い合わせが殺到しないよう、伝達内容を工夫すべきである。

利用可能な情報伝達手段を最大限活用できるよう、平時から各伝達手段の点検や災害を想定した操作訓練等を行うべきである。また、災害時は職員の対応能力を大幅に上回る業務が発生するため、システム改良等による入力担当職員の負担軽減や、防災担当職員以外の部局の職員が避難勧告等の情報伝達を担う等、全庁をあげた役割分担の体制を構築しておくとともに、訓練等を通じた操作担当者の機器操作の習熟を推進すべきである。