2025/05/25
防災・危機管理ニュース
【ベイルート時事】レバノンのイスラム教シーア派住民の間で、昨年9月にイスラエル軍が「テロリスト」とみなして空爆で殺害したレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの前最高指導者ナスララ師を殉教者として英雄視する見方が広がっている。首都ベイルート南郊のダヒエ地区にあるナスララ師の墓を訪れる人は絶えず、さながら「聖地巡礼」の様相を呈していた。シーア派住民のイスラエルに対する憎悪は一段と増しており、将来の紛争激化の火種はくすぶり続けている。
ヒズボラの活動拠点であるダヒエ地区の墓を訪れた住民は、墓石を取り囲む30平方メートルほどの参拝所を見て「モスク(イスラム礼拝所)のようだ」と語った。参拝者は墓石に手を置いたり、額を付けたりして死を悼んでいた。ある人は涙を流し、ある人は墓石の近くでイスラム教の聖典コーランを読む。礼拝する人もいた。
墓を頻繁に訪れるというベイルート在住のムフティさん(36)によれば、毎朝、約3000人が参拝し、外に人があふれることもある。ナスララ師について、「人々との精神的つながりが非常に深い」と語り、後継の最高指導者カセム師とは別格だと強調。ナスララ師の死は、心に埋め難い空洞をもたらしたようだ。
墓から車で約5分。人けの無い集合住宅群の中に、落ちくぼんだ広い空き地が現れる。ナスララ師の写真看板やヒズボラの旗が掲げられ、そこが地下に潜んでいた同師が空爆で殺害された場所だと分かる。ヒズボラ関係者とみられる男性が、遠巻きに跡地を監視していた。空き地を見詰めていた近所に住むアラさん(16)は「父のような存在だった」と語った後、目に涙を浮かべて言葉を詰まらせた。
イスラエル軍は昨年9月に攻勢を強め、停戦が発効する同11月までダヒエ地区で空爆を繰り返した。崩れた建物は今も至る所に残っている。集合住宅の地下で15年間、靴工場を営んできたアリ・ヤシンさん(60)は、崩れそうな天井の下で仕事を再開した。「私にできることは、一生懸命に働くことだけだ。こうして生活を続けることが、イスラエルへの抵抗だ」。ヤシンさんは、怒りを込めてそう語った。
〔写真説明〕イスラム教シーア派組織ヒズボラの前最高指導者ナスララ師の墓(左奥)=22日、レバノンの首都ベイルート南郊ダヒエ地区
〔写真説明〕イスラム教シーア派組織ヒズボラの前最高指導者ナスララ師の殺害現場=22日、レバノンの首都ベイルート南郊ダヒエ地区
〔写真説明〕イスラエル軍の空爆で破壊された集合住宅の地下で靴工場を営むアリ・ヤシンさん=22日、レバノンの首都ベイルート南郊ダヒエ地区
(ニュース提供元:時事通信社)



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