南海トラフ沿いに設置されている海底地震・津波観測網「DONET」の水圧計を利用し、紀伊半島沖の2カ所で海底の年間沈降量を初めて観測できたと、海洋研究開発機構の町田祐弥副主任研究員らが27日までに発表した。将来、多数の地点で長期観測できれば、大地震や津波の発生リスクを評価するのに役立つと期待される。
 南海トラフでは海側プレートが陸側プレートの下に沈み込み続けており、陸側プレートの先端付近も引きずられて海底が沈降する。しかし、長年続くと限界に達し、元に戻ろうとしてプレート同士の境界が急に滑り、大地震が発生。海底がはね上がり、津波も起きる。
 DONETの各観測点には地震計のほか、津波が来た場合に生じる水圧の増加を津波の高さに変換できる水圧計があり、気象庁の津波警報に利用されている。海底の沈降でも水圧が増すため、原理的には沈降量を観測できるが、年間数センチの沈降に相当する水圧の変化はわずかで、これまでは計器の機械的な誤差と区別できなかった。
 町田さんらは、移動式の高精度な水圧校正装置を開発。紀伊半島沖の2カ所を選んで海底水圧計の数メートル先に設置し、レーザーを水平に照射して微小な高低差を計測するとともに、水圧を比較することを半年から1年程度おきに繰り返した。
 その結果、実際の沈降量を把握でき、紀伊半島南東沖の「1B―08」地点は年間1.5センチ、南方沖の「2C―10」地点は同2.5センチ沈降していることが分かった。
 プレート同士の境界は一様に固着しているのではなく、時期や場所によってごく小さな地震が起きたり、地震にならない程度にゆっくり滑ったりしている。町田さんは「今後は海底水圧計の校正を行う地点を増やし、長期的な沈降パターンを明らかにしたい」と話している。 

(ニュース提供元:時事通信社)