2020/09/25
事例から学ぶ
タテ割の垣根越えた連携・ネットワークで備える

(株)深松組/(一社)仙台建設業協会/杜の都建設協同組合
宮城県仙台市
災害は不測の事態の連続だ。状況をとらえた柔軟な対応が求められる一方、あらかじめどう動くかを決めておかなければ何もできない。深松組社長で仙台建設業協会会長の深松努氏は東日本大震災の教訓を胸に、災害に強い体制づくりを一貫して進めている。社会は人口減の局面に入り、地域の守り手たる建設業も確実に従事者が減少。そのなかで、コロナの影響による複合災害に備えなければならない。困難に対応していくキーワードは連携、ネットワークだ。
(※本文の内容は6月12日取材時点の情報にもとづいています)
「南海トラフ地震の被害は東日本大震災の比じゃない。自社のエリアがどれだけ浸水するか、知っていますか。知っていたとして、重機はどこに置いていますか。一度でも塩水に浸れば使えませんよ。ひとまず助かったとして、初動ができますか。被害は広域で、最大規模では神奈川から四国、九州までやられる。燃料はどうしますか。被害エリア外の人と協定を結んでいますか。1社、2社では到底間に合いません」
仙台建設業協会会長で深松組社長の深松努氏はそう警鐘を鳴らす。東日本大震災で身につまされたのは「あらかじめどう動くか決めておかないと、いざ事が起きてからでは、気が動転し何もできない」ということだ。それはそのまま初動の遅れにつながる。
「3.11では仙台で923人が亡くなった。全員津波です。しかし、津波が来たのは地震から1時間後。誰も来ると思っていないんです。皆、家の片付けをしていてやられている。もし備えていれば、逃げられた。一人も死なずに済んだ。それが悔しい」
行政・業界がタテ割を越えて連携したがれき処理
災害時、地域建設業の重要継続業務はいうまでもなく被災した道路の啓開や壊れたインフラの復旧だ。仙建協の災害対策本部長も務める深松氏にとって自社のBCPは大前提。それにもまして重要なのが「地域のBCP」、すなわち迅速に地域の復旧に取りかかれる体制を常に保持しておくことにある。

3.11 で緊急出動した仙建協会員を待ち構えていたのは、膨大な量のがれきだ。同協会、宮城県解体工事業協同組合、宮城県産業廃棄物協会(現・産業資源循環協会)仙台支部の3団体と仙台市が取り組んだがれき処理は後に「仙台方式」と呼ばれ、復旧対応の好事例として紹介されることが多い。
しかし、Q&A方式でまとめられた冊子『役に立つ!災害廃棄物処理の初動期活動』には、初動期における現場の課題と苦悩が綴られている。一部を次ページに抜粋して紹介するが、所轄が多岐にわたるがゆえの混乱が随所に。特に解体がれきは「解体工事業者は組合として仙台市と一括契約できたが、仙建協は会員会社ごとの契約。手続きが非常に煩雑化した」という。
最終的には3団体と市が緊密に連携して9つの作業部隊を編成。明確に役割分担を決めて活動を展開し、市内約270万トンのがれきを3年ですべて処理、かつ80%のリサイクル率を達成した。しかし深松氏は「今後は行政の技術職員が減り、我々業者も減る。何もしなければ早晩対応できなくなる」と話す。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方