早くトップを代替拠点へ連れていかねば⁉
第6回:社長を運びたがるBCP
荻原 信一
長野県松本市出身。大学卒業後、1991年から大手IT企業に勤務。システム開発チームリーダーとして活動し、2005年にコンサルタント部門に異動。製造業、アパレル、卸業、給食、エンジニアリング、不動産、官公庁などのコンサルティングを手がける。2020年に独立。BCAO認定事業継続主任管理士、ITコーディネータ。
2024/02/06
ざんねんなBCPあるある―原因と対処
荻原 信一
長野県松本市出身。大学卒業後、1991年から大手IT企業に勤務。システム開発チームリーダーとして活動し、2005年にコンサルタント部門に異動。製造業、アパレル、卸業、給食、エンジニアリング、不動産、官公庁などのコンサルティングを手がける。2020年に独立。BCAO認定事業継続主任管理士、ITコーディネータ。
BCPで規定した計画と現実との間に生じるギャップを抽出し、多くの企業に共通の「あるある」として紹介、かつ、食い違いが生じる原因とそこへの対処を考えていく本連載。これまでは、第1章として「リソース制約と事業継続戦略の検討・見直し」のなかに潜む「あるある」を論じてきました。
今回からは第2章に入り「BCPの実効性、事業継続マネジメント、発生コスト」のなかに潜む「あるある」を取り上げていきます。なお、第1回で本連載の大筋の構成を目次としてお示ししましたが、再度、第2章の目次をご提示します。以下のような流れで進めていきます。
(6)事業継続マネジメント
・「ISOの二の舞だ」(中堅・製造業・経営)
・BC「M」の重要性
・第三者認証制度を運用のエンジンに
(7)人材育成・確保
・優秀な人材をBC推進担当者としてアサインさせたい
(8)発生するコストをどう説明するか
・コストは投資の考え方で
では、今回は「BCPの実効性」に関してよく見られる食い違いのうち、初動・災害対策本部に関する「あるある」について考えていきましょう。
1)初動・災害対策本部
・みんな羽田に大集合(中堅・製造業・総務部門)
私が講演を担当したセミナーで、参加者の方から質問を受けました。
「首都圏直下地震が起きた場合、羽田空港の復旧には何日かかりますか?」
セミナーのテーマとは異なる質問だったので少々驚きながらも知っている限りでお答えしました※が、気になったので聞いてみました。
※「羽田空港・成田空港では、点検後、当日から翌日にかけて順次運航を再開する。また、救急・救命活動、緊急輸送物資・人員等輸送の運用が行われる」(防災対策推進検討会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ最終報告、平成25年12月19日公表より)
もしやと思い、参加者の皆様に挙手をお願いして、羽田空港から経営者を地方に移動させる必要があるか聞いてみたところ、少数ですがぱらぱらと手が挙がりました。
それを見て、何か特別な事情でもあるのかと一瞬考えました。
東京には、おっとりタイプの創業家出身の社長がいて、大阪には反社長派の急先鋒である専務が一大勢力を誇っており、虎視眈々と社長の座を狙っている。一瞬でも社長が指揮権を手放してしまえば、創業家出身の社長をはじめ現体制が駆逐されて専務一派に会社を乗っ取られてしまう。それが当社にとっての一大事であり、それだけは何としてでも避けたい。だから一刻も早く社長を大阪に送る必要があるのだと。
安っぽいドラマの1シーンのようなことしか思いつかず、即却下。
社長には、若かりし頃、将来を誓い合った相手がいたのだがそれは叶わず、今その相手は大阪に住んでいる。もしこの身に何かあれば、せめてもう一度だけと総務部長にだけは明かしてあって…ますます安っぽく、しかも事業継続は関係ないので却下。
先に申し上げた通り「羽田空港・成田空港では、点検後、当日から翌日にかけて順次運航を再開する。また、救急・救命活動、緊急輸送物資・人員等輸送の運用が行われる」とあります。
大阪(大阪に限らず目的地)への便がすぐに運航されるとは限りません。また、羽田空港に向かっていた航空機が地震発生の報を受けて引き返したり、別の空港に緊急着陸して待機したりしている場合も考えられますので、すぐに羽田から飛び立てる状態であるとは限りません。もしかしたら、一刻も早くと皆がやきもきするなかで、何日も空港で待機することになる可能性さえあります。
また、救急・救命活動、緊急輸送物資・人員等の輸送が行われている最中に「さあさあ、お先にどうぞ」と何よりも誰よりも早く社長を乗せてくれるとは考えにくいと思います。社長は、御社の中では何もかも優先してもらえる立場かもしれまんが、搭乗を待つ多くの旅客の中の一人でしかありません。
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