NPO法人 エコロジーオンライン理事長 上岡 裕氏

国連が定める「SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)」に取り組む企業が急速に増えてきた。2030年までに国際社会が目指すべき姿を17のゴールに整理したものだが、それらの目標に自社の事業がどう対応しているかを整理することが重要だ。長年にわたって国内外で環境問題の改善に取り組んできたNPO法人エコロジーオンラインの上岡裕理事長は「これから起きてくるさまざまな『持続可能性の喪失』にどう対応するかという話がSDGsの中に込められている」とした上で「事業の持続可能性を高めるためにはBCPの中で検討される項目とSDGsをつなげていくことが重要」と指摘する。

本記事は「月刊BCPリーダーズ」12月号に掲載したものです。月刊BCPリーダーズはリスク対策.PRO会員がフリーで閲覧できるほか、PRO会員以外の方も号ごとのダウンロードが可能です。
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どう自分が課題に関わるか SDGsは分野統合的

――SDGsの現状をどのように受け止めていますか。昨年までの流れだと、新型コロナの流行がなければ社会に定着していく段階だったかもしれません。
コロナ禍の動きでいうと、学校の修学旅行や遠足、校外学習などをアテンドしていた旅行代理店は、それらが軒並み中止になったことを踏まえ、代わるものとして近場のSDGsのツーリズムを提案したりしています。

一つ相談があったのは、例年実施していた東京での1泊2日の研修ができなくなり、近場で社会体験のようなことができないか、と。生態系保全に取り組んでいる動物園などで、見学と座学をセットで提供するといった提案が考えられると思います。たぶん、SDGsはこれまでの延長線上にある。すでにプログラム化されている環境教育であったり、体験学習であったり。そこをどう結び付けられるかだと思います。

一つの問題を解決しても、その問題は別の問題ともつながっているので、全てクリアしなければ本当の解決にはつながりません。社会の成り立ちを踏まえた座学的な要素があって、具体的なアクションをしている人たちと触れ合って、その先は自分たちが課題に向き合い、自分たちなりのアクションを検討し、一歩踏み出すところまでをセットにできればと考えています。

これまでも野生生物の観察といった環境教育はあったけれど、それは理科的な生態を学ぶだけでした。そこから一歩踏み出し、じゃあその生態を地域でどう守っていくのか、と。「課題がある」だけでなく、自分がそこにどう関わるか。研修をしたその先、自分が学校や社会に持って帰ったときに何ができるかまで落とし込むということです。

SDGsには「誰1人取り残さない」という大きな理念があります。これまでの社会的な活動との違いは、統合的であるところ。これまでは分野が分かれていて、貧しい人たちの支援であったり、障がい者の支援であったり、環境を守る取り組みだったり、それぞれの団体がそれぞれの立場で個別にやっていた。SDGsはそれを、地球規模から地域までのさまざまな単位でつなげていきます。

――中小企業の関係者でもSDGsのバッジをつけている人が増えました。
ただ、SDGsをしっかりと会社の経営や事業に落とし込めているケースはごく少数。SDGsは分かっているけれど、自分の事業とどうつなげていいか分からない人が圧倒的多数です。

SDGsを俯瞰(ふかん)したときに地球温暖化の問題が入っているので「取り組むには省エネでお金がかかってしまう」という人もいる。そういう人には「うまく省エネをやると短期的にコストが高くなっても長期的には下がります」と話します。SDGsを踏まえてエネルギーのマネジメントやカウンセリングをできる人が出てくればいいですが、まだそこまでこなれていません。

また、ある経済団体は「SDGsが協働のモデルになるんですか?」みたいな話をされる。そのため何度も「16番目の目標が平和で、17番目がパートナーシップ。平和とパートナーシップがなければ環境や経済、社会も成り立たない」という話を丁寧にします。

SDGsは課題が横につながっていくので「それぞれの課題を抱えている人たちを横につなげること自体が協働です」という話もしますが、縦割りの組織では横のつながりをつくることがどうしても難しい。日本は、個別に「SDGsのこの目標に取り組んでいる」となりがちで「パートナーシップでの解決」になかなか至らないのが現状ですね。