半導体製造装置大手の株式会社ディスコ(東京都大田区)は、平時のコミュニケーションツールを使ったさまざまな危機事案に対応できる初動対応訓練の仕組みを開発し、実践を続けている。メンバーが、危機を発生させる運営チームと対応チームに分かれ、業務中に突発的に危機事案を模擬的に発生させるとともに、通知を受け取ったチームは、即座に、訓練を開始する。リアリティーを追求した結果、たどり着いた手法だ。

 

「2週間前に国内初の感染者が出た新型呼吸器系感染症の感染が拡大している」。

3月の業務中、社内用のメッセージアプリに、厚生労働省の発表会見内容をまとめたメモが流れた。インシデント発生の連絡だ。訓練の運営チームが仕掛けたもので、初動対応の訓練が始まる号令である。

メッセージは本社施設管理部BCM推進グループのメンバー3人が考えたもので、実際にこうした事態が起きたというリアルな想定となっている。新型の感染症が国内で流行し始めたという内容である。

このメッセージを受け取るのは、同じBCM推進グループの残りの7人。通知に気づくと、突然、業務の手を止めて初動対応の訓練に移行する。

経営陣への報告、広報文作成…本番さながらに

まずは、社内で疑い症状がある人の確認をする。模擬的ではあるが、実際に対応をするというのがルールだ。

訓練運営チームが一般社員役となり、運営チームに対して、●日●時時点で、どのような濃厚接触をしたかという確認のメールを送る。

受け取った運営チームメンバーは、「ある社員から家族に症状が出ている連絡があった」という形で対応チーム側に返信。これを受け、対応チームはその社員のここ数週間での接触者の確認などを聞きだし、さらに他の社員の感染疑い症状の確認なども行う。

さらに、仮に感染者が増えた場合の生産体制や出荷体制への影響を調査し、各拠点に対応を指示する。最終的には、経営陣への報告内容をまとめるほか、コーポレートサイトに掲載する広報文などのドラフト作成にまで及んだ。一連の取り組み範囲は本番さながらだ。

ただし、対応に当たることができる時間は30分と制限されている。終了したタイミングで、訓練対応の振り返りも義務付けられている。検証は10分ほどかけ、運営チームが対応の漏れなどを見つける一方で、対応チームは想定の不備などを指摘し、相互に評価する。

画像を拡大 災害初動対応訓練の流れ

運営チームは単に危機的な想定を考えるだけでなく、本来どういう対応をすべきかをあらかじめ考えておき、その対応ができたのかをチェックする役割も持つ。仮に運営チームが重要だと考えていた対応を実際に対応チームが行うことができなければ指摘を受けるという。逆に運営チームの考えていなかったようなことにまで気付いて、想定を上回る対応がなされるケースも少なくない。運営側も対応側も、双方が本気で競い合っている。

運営チームと対応側は毎回、メンバーが持ち回りで代わっていく。グループ全体で想定力と対応力の両方が身についていく仕掛けだ。1年ほど前から、同社の職場で、毎週のように繰り返されている光景となり、その数は、数十回に及ぶ。