米国とイランが戦闘終結に向けた覚書に署名することで合意した。中東情勢悪化で混乱した原油供給や経済、市況は今後どうなっていくのか。出光興産の酒井則明社長、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの藤田隼平主任研究員、市場分析などを手掛けるブーケ・ド・フルーレットの馬渕治好代表に聞いた。
 ◇中東産原油、今後も調達=酒井則明氏
 ―米イラン合意の受け止めは。
 歓迎するが、安心はできない。米国とイランは合意に至ったが、イスラエルの存在もある。
 ―石油製品の価格はどうなるか。
 かなり高いコストで調達しているため、まだ一定程度は上がっていくだろう。合意を受けて原油相場が下がればコストも少し下がり始める。
 ―中東産への依存度は下げるべきか。
 依存度を下げることがエネルギー安全保障上は好ましい。ただ、中東産原油からどんどん離れればいいというわけではない。日本は今、(代替調達の一環で)多くを米国産に頼っている。しかし、米国で原油の在庫水準が下がっているという報道もあり、今後も安定して調達できる保証はない。将来にわたって必要な量の調達が維持できなければ、リスクの分散として十分とは言えない。
 また、日本の製油所設備は中東産原油の性状に合わせている。効率的に操業できる中東産を引き続き調達する方向もしっかり考える。
 ―日本は備蓄原油が活用できた。
 高いレベルで備えがあったため、国内はパニックに陥らなかった。備蓄について全体のボリュームや内訳、ナフサを対象にするかなど、さまざまな視点からの議論が始まるのではないか。
 ◇合意履行なら景気腰折れ回避=藤田隼平氏
 ―米イラン合意の日本経済への影響は。
 合意が守られれば、景気の腰折れは回避できそうだ。ホルムズ海峡が封鎖解除に向かう中で7~9月期以降は経済への悪影響が和らぎ、2026年度は0.6%程度の緩やかな成長率で着地するだろう。ただ、合意が守られる確証はなく、正常化が1四半期遅れれば成長率を年0.1~0.2ポイント押し下げる。
 ―原油価格の高騰と供給不安は沈静化するか。
 原油先物価格はすでに(下落方向に)反応しており、合意履行の確度が深まれば、7~9月期中に1バレル=70ドル台まで下がる可能性がある。サプライチェーン(供給網)は、通航の安全確認や輸送に要する時間を考えると、7~9月期は需給の逼迫(ひっぱく)感が残り、景気を下押しする。年末には供給の目詰まりも落ち着くだろう。
 ―物価や消費は。
 原油やナフサは高い価格で代替調達しており、先物価格が下がっても26年度中は消費者物価の上昇が続く。ただ、一番の懸念材料だった消費者心理の悪化は改善する見通しで、政府の物価高対策もあり個人消費は底堅く推移するとみる。政府はガソリンや電気・ガス代補助の出口を意識できるようになり、財政懸念も幾分和らぐだろう。
 ◇合意内容に不透明さ=馬渕治好氏
 ―記録的な株高になった。
 米・イランの戦闘終結合意を受けた株価の上昇自体は自然な反応だが、核開発に関する両国の主張の隔たりは大きい。ホルムズ海峡の航行が戦闘開始前の状態に戻るのかなどもまだ不透明で、15日の日本株の上げ方にはやや過剰な面もある。
 ―きょうも人工知能(AI)関連株が上がった。
 AI関連企業が巨額なデータセンターへの設備投資に見合った利益拡大を実現できるか、AI株が買われ過ぎではないか、といった疑念は残る。
 ―株式市場の見通しは。
 短期的には合意内容に振り回されるだろう。具体性を欠けば、反動が出る恐れがある。需給面も不安だ。軍事費拡大などを背景とする米国債の増発や、スペースXなど相次ぐ大型上場などが、投資資金を吸い上げ、株高を維持できなくなる可能性もある。日経平均の7万円到達もあり得るが、今は下落を警戒すべき局面だと考える。
 ―今後の注目点は。
 中長期的には米経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)だ。原油価格が開戦前の水準に戻らず高止まりすれば、「企業のコスト増と家計の購買力低下」、「インフレ懸念による米利上げ観測」という二つの経路で米経済にマイナス影響となり、日本株にも重しとなる。 
〔写真説明〕インタビューに答える出光興産の酒井則明社長=15日午後、東京都千代田区
〔写真説明〕藤田隼平 三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員(同社提供)
〔写真説明〕馬渕治好 ブーケ・ド・フルーレット代表(本人提供)

(ニュース提供元:時事通信社)