災害復旧時のサイバーセキュリティリスク
第50回:復旧優先が高める脆弱性
林田 朋之
北海道大学大学院修了後、富士通を経て、米シスコシステムズ入社。独立コンサルタントとして企業の IT、情報セキュリティー、危機管理、自然災害、新型インフルエンザ等の BCPコンサルティング業務に携わる。現在はプリンシプル BCP 研究所所長として企業のコンサルティング業務や講演活動を展開。著書に「マルチメディアATMの展望」(日経BP社)など。
2026/07/23
企業を変えるBCP
林田 朋之
北海道大学大学院修了後、富士通を経て、米シスコシステムズ入社。独立コンサルタントとして企業の IT、情報セキュリティー、危機管理、自然災害、新型インフルエンザ等の BCPコンサルティング業務に携わる。現在はプリンシプル BCP 研究所所長として企業のコンサルティング業務や講演活動を展開。著書に「マルチメディアATMの展望」(日経BP社)など。
首都直下地震が発生したときには、企業は当然ながらに、人命を最優先にした救命救護からはじまり、可能な限り迅速に事業継続の活動に進みます。本社機能の停止が起こることは避けられません。その中で対策本部が設置され、BCP(事業継続計画)が発動されます。各社は復旧・事業継続に向けて全力を挙げることになるでしょう。
しかし、この「復旧の最中」にこそ、もう一つの重大なリスクが進行します。それがサイバー攻撃のリスクです。災害時における火事場泥棒的な攻撃は、世界的に見ても決して珍しいことではなく、実際に国家間の紛争などの混乱に乗じたフィッシング詐欺や偽サイトの増加が確認されています。問題は、外部だけではありません。企業自身の運用が変質することで、平時には考えにくい“弱点”が露出してしまいます。
災害時の組織は、「サイバーセキュリティ優先」から「復旧優先」へと軸足を移します。意思決定は迅速化され、通常の承認プロセスは簡略化されることになり、これらは当然の対応だと共通認識され、その結果、ITガバナンスの前提条件が崩れます。
典型的なのが管理者権限の扱いです。復旧作業を急ぐあまり、ローカル管理者権限や特権IDが一時的に広範囲に付与されることになります。複数の担当者が同一アカウントや端末を共有し、パスワードが口頭や手書きのメッセージで伝えられるといった状況も現実に起こりうる。こうなると、「誰が何を行ったか」を後から追跡することはほぼ不可能となります。
さらに、通信障害や端末損傷の影響で、多要素認証(MFA)が機能しないケースも想定されます。その結果、やむを得ず認証を簡略化する措置が取られれば、アカウント乗っ取りのリスクは一気に高まります。このように災害時は心理的にも、サイバーリスクに対する警戒を軽んじ、攻撃者にとっては理想的な侵入環境となるわけです。
このような状況で管理者権限が搾取されると、オンプレミスの環境ばかりでなく、SaaSとしてのMicrosoft 365やGoogle Workspaceなどのコミュニケーション基盤の情報が奪取され、社内および全取引先とのメール、機密データが公開されれば、企業にとって取り返しのつかない状況に陥ります。
企業を変えるBCPの他の記事
おすすめ記事
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2026/08/05
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2026/08/04
令和8年熊本地震 猛暑の被災地で熱中症を避ける
最大震度7を記録した令和8年熊本地震。熊本県内では400超の避難所が開設され、約9千人が避難している(29日時点)。真夏の避難生活は、熱中症の危険性を確実に高める。しかもこれからは、猛暑・酷暑下での復旧活動が本格化し、多くの人々が被災地で活動する。現地で熱中症をどう防いだらいいか。熱中症と災害医療に詳しい、さいたま赤十字病院高度救命救急センターの席 望医師に対策を聞いた。
2026/07/30
令和8年熊本地震 広がるデマ、どう見分ける?SNSとの向き合い方
28日に発生した最大震度7を記録した熊本地震では、早くも豪華寝台列車「ななつ星」が脱線したなどのデマ情報が広く拡散された。災害のたびに、広くSNSで拡散される情報にどう向き合えばいいか。デジタル空間の情報分析を専門とする Japan Nexus Intelligence の竜口七彩氏に聞いた。
2026/07/29
事例研究で有事に備え、組織の体質改善で形骸化を防ぐ
組織レジリエンスの強化やサイバーセキュリティーの向上、サプライチェーンの強靭化など、危機管理やリスク管理担当者が関与する領域は年々拡大している。変化する社会状況にあわせ、担当者はどのように学び、備え、対応することが求められるのか。森総合研究所代表の森健さんは、自治体と企業で危機管理担当者としての経験を積み、現在はコンサルタントとして、企業や団体の危機管理の支援を手がけている。自身の経験を踏まえ、危機管理の担当者にどうアドバイスしているのか、話を聞いた。
2026/07/27
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方