2. 『事業活動の遂行に関連するリスク(オペ レーショナルリスク) 』と『事業機会に関連するリスク(経営上の戦略的意思決定における不 確実性) 』のバランスが肝要

リスクマネジメントや BCPの実践において、企業は平成 15 年 6 月の経済産業省のレポート「リスク新時代の内部統制」で言っている『事業活動の遂行に関連するリスク(オペレーショナルリスク) 』に 関しては十分に実践しているケースが多いと思いますが、 『事業機会に関連するリスク(経営上の戦略的 意思決定における不確実性) 』の対応が不十分であれば、結局、企業経営は上手くいきません。両者のリ スクはともにバランスが取れた管理が必要です。  

パナソニック・ソニー・シャープなどの家庭電器メーカーは、従来からの家庭電器の分野に拘って抜本的な体質改善が行われないまま、主力製品のテレビの極端な不振に直撃され、大幅に業績が悪化したと考えます。パナソニック・ソニー・シャープなどの『経営上の戦略的意思決定』に関しては全く経営者の責任であったと思います。

3.金融機関との関係について
メインバンクという概念は、わが国の経済が発展 途上で、企業の自己資本の蓄積が少なく、銀行借入依存度が大きかった時代において存在しました。私がかつて勤務した都市銀行の実務経験から、メインバンクの定義を私なりに致しますと、
 ①当該企業に対する当該銀行の融資シェアがトップである。
 ②当該企業と当該銀行の間に信頼関係が成立している。
 ③該銀行は当該企業の資金調達についての最終責任 を持っていると認識している。
 ④当該銀行は、当該企業の経営・業績に関して詳細を承知しようとし、かつ経営に関して意見を申し述べる。
 ⑤当該企業の経営危機に際しては、当該銀行が救済するとの暗黙の了解が存在している(銀行・企業・世間)。  

といったことかと思います。  

私の実務経験からは②の当該企業と当該銀行の間に信頼関係が成立している、ということが最も大事 なことでした。単に数字の上で融資シェアがトップであっても、 大企業では企業と銀行の経営者の間に、 中小企業の場合は経営者と支店長の間に信頼関係が成立していなければ、メインバンクではありませんでした。

企業の自己資本比率が大きくなり、また増資や社債等による資金調達が主になって、銀行借り入れ依存度が低下し、最後には借入金ゼロの企業も出でき て、メインバンクの制度は崩壊したように思われます。  

9月4日の日本経済新聞1面「金融ニッポン・第2部 原点に帰る」の記事には下記のように書かれています。  

『銀行の現場力が落ちているのではないか。液晶パネルの雄、シャープの業績悪化に取引銀行が慌ただしく動き出したのは最近のことだ。 「最終赤字 が 300 億円から 2500 億円に拡大する」 。8月初め、 シャープが今期の業績予想を修正すると、みずほコーポレート、三菱 UFJ 両行は急きょ、資産査定 部隊を立ち上げた。8月末に決めた 1500 億円の追 加融資では初めて担保も取った。

(中略)6月末の残高は3年前の3倍弱 4600 億円に上るが、経営改 善に積極的に関与してこなかった。 「シャープほど の優良企業なら大丈夫だと思った」と銀行幹部は明 かす。 (中略)バブル崩壊を経て一度遠くなった企 業との距離を埋められずにいる』  

同紙の記事は、シャープの業況悪化に対するメイ ンバンクの対応の遅さを問題にしています。9月6 日の朝日新聞9面には 「これ以上の融資には黒字転 換するための事業計画が必要 (幹部) との声もある」 と報じています。  

主力銀行とシャープの関係では、最初に申し上げ たメインバンクの条件中、②の信頼関係が成立していなかったのではないか。また④の当該銀行は、当該企業の経営 業績に関して詳細を承知しようとし、かつ経営に関して意見を申し述べるということもで きていなかったように見えます。  

9月6日の朝日新聞は、「国内の大手電機メーカーが本社と主力工場を担保に融資を受けるのは異例だ」とし、他紙もこれに追随しています。結果、主力銀行はシャープの将来を信用していないことを内外に知らしめることになりました。 格下げが相次ぎ、 株価も下落、台湾の鴻海(ホンハイ)からは益々足 元を見られていると思います。外からなので詳しい 事情はわかりませんが、主力銀行は歯を食いしばってでも支援する姿勢を示すのがシャープのためだっ たのではないかと思いました。また、 銀行の幹部が、 報じられているような意見を述べているとすれば不見識ではないかと考えます。  

平成 18 年3月に公表された経済産業省の「リスクファイナンス研究会報告書」は『わが国では、メ インバンクは、最大の貸し出しシェアを占める債権 者として、また長期安定的な株主として、企業が災 害や事故等により一時的に業績が悪化しても、長期 的視野に立ち、事業活動の継続や相応の収益性が見込まれる場合には、 (中略)メインバンクは融資先 企業のリスクファイナンスをサポートする機能を提 供してきたといえる。 (中略)しかし、企業の財務 状況、金融環境の変化により、メインバンク制は次 第に弱まってきており、企業がデフォルト(倒産) した際にメインバンクが被る損失も相対的に小さくなってきている。このためメインバンクによる企業 救済のインセンティブは低下している可能性があ る。 「いざという時は、メインバンクに資金を手当てしてもらえる」と考えている企業も数多く見られるが、これまで提供されてきたメインバンクによる リスクファイナンス機能は、その提供される度合い や実現性が低下してきている点に留意する必要があ る』と警告しています。  

シャープと主力銀行との関係は、外から見る限りでは、リスクファイナンス報告書の警告通りの事例のように見えます。  日本経済新聞は 9 月 4 日の記事で「新たな資金需要を掘り起こすには従来以上に銀行員が取引先とともに経営を考える必要がある。企業育成こそ融資の 王道」と言っています。これは理想ですが、それ以前に主力銀行は貸出金債権の保全のためにも、平素から企業の将来を十分検討し、判断を持っているべ きだと思います。  

企業の経営者は、現在はかつてのようなメインバンクによるリスクファイナンス機能は期待できないと覚悟し、しかし主力銀行とは、ご自分の企業の現況・将来について、できる限りの意思疎通を図っておくことが大事だと痛感致します。

私は都市銀行勤務中、主として本店における企業分析 審査や、支店おける貸出業務に従事しました。 ・ 多くの企業との取引に関わりましたが、支店におけ る貸出の稟議・本店における貸出の決栽にあたっては、常に取引先の将来の見通しを考慮して判断を行ってきました。  

私は、担当を離れても、あの時の企業の将来に対 する判断は正しかったか、いつも気にして結果を見ていました。精一杯の努力をしても将来を見通すことは至難の技で、 見通しを誤ったケースもあります。 しかしその時々自分として精一杯の判断を繰り返し ていくしかありません。銀行勤務約 30 年の私の結論は、 「企業の盛衰は経営者による。経営者に最も 必要な資質は環境の変化に対する適応能力である」 ということでした。