過去の教訓を未来に生かすために

災害対応では、現場の最前線で対応にあたる「人」の重要性はもちろんのこと、業務継続計画(BCP)や防災マニュアルといった組織資本、建物や情報通信インフラ等の経済資本、さらには外部からの応援の基礎となる社会関係資本がそれぞれ重要な役割を果たします。システムモデルに当てはめると、ひとたび災害が起きると、これらキャピタルが、相互に関係性を持ちながら、共通の目的(職員の安否確認や職場の迅速な復旧など)に向かっていく、という構図が描けるはずです。

この過程で、災害によってダメージを受けたキャピタルが別のキャピタルとの相互作用によって再構築されるということが起きます。例えば、災害により情報システムがダメージを受けた時、外部(社会関係資本)からのサーバ(経済資本)やデータ(組織資本)の提供により情報システムの運用が可能となります(詳しい事例については次回以降で紹介していきます)。

実際の災害の現場で何が起こっているのかという事実確認に加え、各キャピタルがどのような動きをするのかについて、抽象的なレベルで分析することで、過去の教訓を汎用的な知識に昇華させることができるんですね。さらには、このプロセスに潜むルールやパターンを見出すことができれば、BCPの策定などに有益な情報となります。要約して言えば、災害を6つのキャピタル×システムの視点で見れば全体像がより見えやすくなり、過去の教訓を未来の災害対応に生かすことが容易になるということです。

ウーバーイーツのビジネスから考える

冒頭の都市の事例に戻ると、平時でもキャピタル×システムのフレームワークを用いることで、街で起こっているさまざまな事象を一つ上の抽象レベルで理解することができます。

例えば、私は最近、都内の道を自転車で走るウーバーイーツの配達ドライバーをよく見かけます。ウーバー自体はキャピタルを内部保有せず、外部のキャピタルをマッチングすることでビジネスを成立させています。外部の人間資本が持つ活用可能な時間(フリー時間)と加盟飲食店で作られた料理(経済資本)に、利用者のニーズを組み合わせることで新たなデリバリーサービス(経済資本)を生み出しているんですね。今話題のシェアリングビジネスも同じ構造と言えます。同じように考えると災害対応は、自社だけではなく、外部との連携により成り立つことがご理解いただけると思います。それだけではなく、災害時には、発生からの時間経過の中で、キャピタル同士の関係性が変化していきますので、その状況を正しくつかむことが災害対応のポイントになるわけです。

以上のように、複雑で流動的な災害対応をより構造的に理解するために、キャピタル×システムのような思考フレームワークが有用だと考えられます。災害対応の構造的な理解を進めることは、ひいてはレジリエントな社会につながっていくと思います。これから、当フレームワークに基づいた災害対応について、東日本大震災の被災自治体の事例を基に考察していきますので、お付き合いいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。


* A. Dean and M. Kretschmer, “Can Ideas be Capital? Factors of Production in the Postindustrial Economy: A Review and Critique,” Academy of Management Review,
vol. 32, no. 2, 2007, pp. 573-594. および M. Mandviwalla and R. Watson, “Generating Capital from Social Media,” MIS Quarterly Executive, vol. 13, no. 2, 2014, pp.97-113. を改変。
** 出展:G.B. Davis and M.H. Olson, Management information systems : conceptual foundations, structure, and development, McGraw-Hill, NY, USA, 1985. 出展:G.B. Davis and M.H. Olson, Management information systems : conceptual foundations, structure, and development, McGraw-Hill, NY, USA, 1985.

(了)