2019/03/13
講演録
連絡員を置く、避難場所を決めておく
津波警報が出っぱなしだったので、行ける状況ではなかったのですが、私が考えていたのは、夜中のうちに何とか現場の状況を把握して、東京の本社に、足りないものを手配しておかないと、朝から仕事ができないなということでした。
皆に現場に行ってくれと言ったときは、どういう答えが返ってくるか、ドキドキしていたんですけど、危険と思いながらも、「分かりました」と言ってくれたのは、本当にうれしかったです。40人ぐらいが現場に行ってくれました。再び津波が来るかもしれないという情報があれば一旦逃げるなど、その対応も大変でした。ただ、私が強調したのは、途中に連絡員をしっかり置くことと、何かあった際の避難場所を必ず決めて、安全を確保してから対応にあたってくれということです。
現場を見た結果、「何も使えません」ということになったのですが、まず何を復旧すべきか、ということも決めています。特に海水で水没してしまった冷却用モーターは、緊急性が求められたので直ちに三重や新潟から運ぶようし指示しました。しかし、本部からは、「三重から車で運びます」という連絡が来たので、「ふざけるな」と言ったことを覚えています。一刻を争う事態の中、三重からでは地震で道がどうなっているかも分からないのに、車なんかに頼れないので、自衛隊に依頼して動いてもらいました。ただし、自衛隊への頼み方にも課題があって、あとから分かったことですが、荷物の1つにモーターがあったというのは確認ができたんですが、なぜそれが乗ったのか、あるいはそれがどれほど重要なものだったかというのは、自衛隊ですら全く分からなかったとのことでした。
9キロメートルの距離をケーブルでつなぐ
現場では、先ほども言った通り、総延長9キロメートルのケーブルを200人に引いてもらっています。そして3月14日、ちょうど100時間後ぐらいなんですが、ケーブルをつなぐことに成功し、冷やす機能が復旧できました。
この間も余震があり、いろいろ起こっているわけですが、まず、所員には、「危険なのは分かっているけど、行かざるを得ないんだ。でも、必ず安全は確保するから頑張ってくれ」ということを伝え、納得してもらっています。現場に行けという一方的な「指示」ではないです。むしろ、現場に行ってくれという「お願い」です。後々、自衛隊の方とも話す機会があったのですが、自衛隊でも最終的には「命令」ではなく「依頼」をすると聞きました。命をかけた任務にあたってもらうときには、人間対人間ですから、偉い人が部下に対して命令口調で指示するのではなく、目をわせて、「悪いけど行ってくれるか?」とお願いしなくてはいけない、そのことをとても強く感じました。
あとは、現場で何を見てきたかということを、しっかりと見極め、皆がいつでも確認できるように、ホワイトボードに書いておくという、「見える化」も大事なことだと思います。
(続く)
(2018年11月8日に行われた一般社団法人レジリエンス協会の定例会 講演より)
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