応急危険度判定について【熊本地震】(4月20日のFBよりその2)

室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
2016/04/20
室﨑先生のふぇいすぶっく
室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
応急危険度判定について
長文かつ限りなく「いやらしいお説教」なので、適当に読み飛ばしてください。
熊本地震は、連鎖型地震の危険性を強く私たちに教えるものでした。この連鎖型の被害というか、後続の本震による大きな被害の追い打ちによって、改めて「応急危険度判定」の実施の重要性とその順守の必要性が確認されたと思っています。
応急危険度判定は、地震の後でうかつに建物の中に入って、余震や地盤の崩壊などによって2次被害を受けないようにするためのものです。今回のような前震の後の本震や本震の後の余震で被害を受けないようにするためのものです。居住者や利用者だけでなく通行人にも危険を知らせるためのものです。建築を熟知し、危険度判定のトレーニングを積んだ建築士などの「専門ボランテイア」によって、実施されます。
今回は、応急危険度判定が終わらないうちに、次の大きな地震が起きてしまったこと、応急危険度判定で「危険と判定された建物」および「判定がまだの建物」には入ってはいけないということが、被災者に周知されていなかったことで、大きな被害を生んでしまいました。
熊本の被災者をさらなる2次災害から守るためにも、応急危険度判定を引き続きスピードを上げて実施すること、その結果を厳守するよう訴えていくことが欠かせません。
被災者はものを取りに帰る、夜間はゆっくり休みたいといったことで、被災建物に入りがちです。ボランテイアも、後片付けや家財の持だし手伝いで、判定を軽く見て入りがちですが、この行為は厳に慎まなければなりません。
この取り組みは、被災者の命を守るためのものですが、立ち入り禁止などの苦渋を強いるものですので、丁寧に理解を求める啓発活動をもっとしっかりしておかなければならなかったと、反省しています。
被災者やボランテイアは、「危険」と判定された建物には原則としてはいらない、「要注意」と判定された建物については、専門家や判定士のアドバイスに従って安全対策を講じたうえで入るようにしてください。危険と判定された建物も含めて、入る必要がある場合には、建築の専門家の立ち合いを得る、あるいはヘルメット着用などのルールを守って、入るのが原則です。一般のボランテイアと建築のボランテイアのコラボがここでは求められます。
ところで、応急危険度判定で危険と判定されても、それは全壊ということではありません。取り壊さないと住めないということではありません。被災度区分判定の建て替え、罹災証明の全壊の判定とは異なります。余震に対して安全性をチェックするもので、余震等の危険がなくなれば「危険」ではなくなり、立ち入ることができます。余震の収まった後に修理すれば住めるようになるケースは少なくありません。
今回は1日後に大きな地震が起きましたが、中越沖地震では、中越地震の2年後に大きな地震が起きて、今回と同様に最初の地震で受けた傷が次の地震でさらに傷口を広げて倒壊するということが起きています。次の南海トラフでも東海と南海の時差を伴う連鎖発生が予想されています。それだけに、今回は決して特殊なことではなく、隔間が短かっただけのことです。
さて、今回の問題は、第1に、1日後に起きたので「未判定のもの」が残されていたこと、第2に、外観目視だけでは、内部に入らないとわからないが見過ごされたということです。前者に対しては、調査士の数を増やして迅速に進めるようにすること、未判定は安全側の論理で「危険」扱いをすることです。
後者は、判定士の命を守ることとの兼ね合いで、とても難しい問題です。ただ、今回のケースでは外観ではわからない傷を最初の前震で受けており、それを見つける判定の精度の向上が求められます。どこまで判定士が危険を冒して中に入って診断するか、議論のいるところです。
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