「必ずしも正しくない経験則」(支援法制のあり方について)【熊本地震】(5月29日のFBより)

室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
2016/05/29
室﨑先生のふぇいすぶっく
室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
行政側にも支援側にも、大規模な災害対応の経験が始めてという人が少なくありません。それゆえに「必ずしも正しくない経験則」に縛られて、対応を間違ってしまうことも少なくありません。
もし、その「押し付けられた経験則」がとても不条理だと感じたときは、その法制の原点に立ち戻って、本当にそれでいいのかをご自分の頭で考え直すようにしてください。不条理と感じた場合、経験則として押し付けられた指導の方が、間違っているいることが多いからです。
支援法制のあり方や運用を考えるときには、
(1)根拠となる法制の理念
(2)その法制の基本フレームや論理
(3)過去における法制の運用の歴史
(4)現在の被災の実態やニーズ
から、今何をなすべきかを考えてください。
今回は、現時点での住宅再建についての支援の基本フレームについてコメントしておきます。
まず、応急対応の段階と恒久対応の段階の「2階建て」になっています。主として、1階は災害救助法、2階は生活再建支援法で対応することになっています。1階がしっかりしていないと、2階は持ちません。災害救助法の運用が極めて重要だということです。
応急対応では、自宅等にしばらく住めなくなった人は、自らの判断で、自宅を修理して仮住まいをするか、仮設住宅に入居するかのどちらかを選択することになっています。前者の人は修理費を受け取ることができ、後者の人は仮設住宅の供与を受け取ることができます。
恒久対応では、罹災証明の被害程度に応じて、住宅の購入や再建を図る場合、補修を図ってすみ続ける場合、賃貸する場合のそれぞれのケースについて、金銭的な支援を受けることができます。いうまでもなく公営住宅への入居という選択肢もあります。恒久対応の場合も、どの対応にするかは被災者が選択します。
罹災証明で全壊と認定されたけれども、文化的価値や思い出のある建物なので修理して住むことも許されます。もっとも、支援金の額は少なくなりますが。
応急対応で仮設を選んだ人が、恒久対応で修理を選ぶこともできます。このことに関して、仮設の入居条件として被災家屋の除却を求めることは、住宅再建支援の制度の建前からしても間違っています。恒久対応での被災者の修理の選択肢を奪ってしまうからです。
同様に、応急対応で修理を選択した人が、恒久対応でも修理を選択することも許されます。災害救助法で修理費をもらい、その上で、生活再建支援法で補修の加算金をもらうのは、当然の権利です。
日本の現行の制度にはないのですが、メキシコ地震など海外の応急対応では、仮設住宅の提供や修理費の提供と並んで家賃補助の選択肢も用意されています。日本のみなし仮設については、この家賃補助の制度で対応するのが適切と考えています。
いずれにしても、被災の実態考慮と被災者の意思尊重を基本にして、災害救助法の運用を図らなければなりません。
(了)
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