今までの土地に住み続けようかどうかを考えておられる、熊本の被災者の皆さんに【熊本地震】(6月3日のFBより)

室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
2016/06/05
室﨑先生のふぇいすぶっく
室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
今までの土地に住み続けようかどうかを考えておられる、熊本の被災者の皆さんに。差し出がましいですか、少しでも参考になればと思い、コメントします。
安全性は必要条件です。安全は最優先すべきもので、安全性を軽視した復興や住宅再建はありえません。しかし、安全性は十分条件ではありません。安全性だけで、生きているのではなく、生きてゆく上では、利便性や快適性、暮らしやすさや人とのつながりなども必要です。
安全だけで拙速に判断してしまうと、地域の活力やコミュ二ティなど大切なものを失ってしまう恐れがあります。安全性と利便性などとの両立をはかる道をあきらめることなくトコトン議論して探ってください。
安全あるいは防災ということでは、生命、生活、生業、生態の4つの生を守らないといけません。そのうち、取り返すことのできない生命は、なんとしても守らなければなりません。人間の生存にかかわる生態系の保護も必要です。そのために、移転しないで生命を守る方法がどうしても見つからないときは、より安全な場所に移転することを考えなければなりません。
ただ、最初から「移転ありき」ではありません。地盤改良をする、構造を工夫する、避難対策を講じることによって、移転しなくても命が守れる場合があります。今回の被災地を見ていると、周囲の建物がすべて全壊している中で、ほぼ無傷の建物も少なからず存在していました。移転しなくても、生命だけでなく建物をも守るヒントが、そこにはあります。移転のメリット、デメリットの両方をよく考えて、最善の方法を考えるようにしてください。
その場合、コミュ二ティを守ることを忘れないでください。移転する場合も、みんなで移転する可能性を最後まで追求してください。安全には、危険のない土地や壊れない建物も必要ですが、助け合えるコミュ二ティもまた必要なのです。移転するかどうかの議論でも、コミュ二ティが強まる方向で、お互いが納得する道筋を見出さなければなりません。
上述のコメントは、移転を薦めるためのものではありません。私は、地域の歴史や文化の伝承、生業とのつながりや土地とのつながりはとても大切なものだと考えています。その意味で、土地とのつながりを絶つことになる移転は、最後の最後の手段です。ふるさとの記憶を、ふるさとの景色を大切にしたいと思っています。
(了)
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