2019/05/31
危機管理の神髄
我々はみんなブルースである
ブルースはたくさんのことを頑張ってやっている。ドローンや無線機のようなテクノロジーツールを扱うのが得意である。緊急車両を彼より上手に運転できる者はいない。しかし我々の準備に立ちふさがるのはその偏見である。あらゆる出会いや、あらゆる会話において、我々はその偏見を克服するだけでも2倍も働かなければならない。
今ではあなたは「このブルースとは一体何者なのだ」と自問しているかもしれない。
OEMにとっては理由をつけて人員や資源の投入をコミットしない幹部職員だった。災害訓練は時間の無駄であるとこぼす区長だった。最悪のシナリオにはならないと”知っていた“消防署長だった。
ブルースの偏見は人間のもろさの典型であり、我々の中にはみんな何がしかのブルースがいる。ブルースは、「引き返せ、溺れるな」というバンパーステッカーを付けたミニバンで、浸水した交差点へ突っ込むサッカーママである。煙感知器の電池を交換する手間を惜しんだウィリアムズバーグのヒップスターであり、ハリケーンが近づいているのにビーチフロントのコンドから避難しなかった南フロリダの高齢な市民である。ブルースの欠点について語ること、我々の中にもあるそれらを認識することが、終わることのない自己満足との闘いの第一歩である。次の重要なステップはそれらの偏見に立ち向かう心構えを持つことである。
例えば、災害専門家は込み入った議論が必須であると認識しなければならない。なぜならばブラックスワンは複雑な野獣だからである。アイデアなしでは問題解決は不可能であり、ブラックスワンが津波のようにもたらすさまざまな問題との対峙はアイデアなしでは望めないので、ストーリーだけではなくアイデアを持つ必要がある。見当違いの自信を「私は知らない」という態度に替えなければならない。我々が確実に知っているのは、ブラックスワンがいつ来るのか、そのインパクトはどのようなものかが分からないように、我々には分からないことがあまりに多いということだ。十分な準備というのはあり得ない、レジリエンスと能力を構築する努力をやめるわけにはいかないというのはそのためである。
予期しないことが起きても、そのたびに動転するのではなく、受け入れなければならない。今まで経験したことがないというのはブラックスワンのとっておきの手の内であり、我々はそれを歓迎しなければならない。確率について思案するのではなく、その結果に集中することができるように、我々の心のうちにある希望の煉瓦(れんが)壁を取り壊して、災害は来るということを認識する必要がある。
最後に、証拠がないからといって、ないことの証拠にはならない。船の監視台にいる見張り人が「鯨が潮を吹いているぞ!」と叫んでいないからといって、ブラックスワンが地平線上の我々の視界に入ってくることはないということではない。
(続く)
翻訳:杉野文俊
この連載について http://www.risktaisaku.com/articles/-/15300
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方